48.生き残った者たちの
「帝国の……。機神が、止まったらしいぞ……」
避難民の中に混じっていた俺たちの所に、そんな情報が伝わってきた。
「氷魔将様がやったのか?」
俺は、その情報を持ってきた男に聞いた。
「いや、よくわからねえけど。氷魔将様もやられたって情報も入ってて……」
「どういう事なんだろう……?」
非常時だが、魔大陸には食料の配給という概念はない。俺たちは、川に入って魚を銛で突いたり、手掴みにしたりして。食料の調達をしていた。
「エルズ、アルズ。それに、セニアンさん。動けたら、火を熾してくれ。魚が結構捕れた」
俺とネレイドが取れた魚を草の蔓にぶら下げて持っていくと。
アルズが懐から火打石を取り出して、集めた枯草に火をつけて。柴に移していく。
「すまん、アルバド。薬草はないか? セニアンが慣れぬ野歩きで足に傷を負った。傷口が変な熱を持っている」
エルズがそんなことを言う。
「薬草ったって……。傷が熱持ってるんだったら、そこに入った菌に合わせた薬草を使わないと……」
「医者、か。屋敷が焼かれたときに、侍医とは離れ離れになってしまったからな……。参ったぞ」
ネレイドが、足を痛そうに押さえているセニアンに言う。
「セニアンさん。まずは、食べて。体力が付けば、変な菌が体に入ってきても、負けないで済む。美味しく焼けたから」
そういって、川魚の良く焼けたのを渡す。
俺たちの肉屋にエルズとセニアンがアルズに連れられて逃げ込んできたのが、一週間くらい前になるか。そこからは、帝国大陸軍のアームドアーマーのホバリング音が聞こえたら、すぐに物陰に隠れて。やりすごして。俺たちはようやく、この山間の渓流が流れる谷まで来た。
もう、魔大陸はめちゃくちゃだ。魔法を使える魔人もいなくなった。魔神が魔力の素になる魔族を作れなくなったからだ。
エルズが治めていた隣の町だけではなく、俺たちの肉屋があった町も、焼き払われて。そこに住んでいた魔人は相当に殺された。
でも、帝国大陸で人間が魔族に変わるさまを目の前で見た俺には。
お互い様のような気がしなくもない。
シェルナーナさんのことを。
久しぶりに思い出した。
「アルバドっ!!」
「いって!! いたいよ、ネレイド!! なんでつねるの!?」
「変なこと考えてたでしょ?!」
「え?」
「別の女が見えた!! 誰よその金髪の女!!」
え? みえた? 俺、思い出しただけだぞ?
「あれ? 消えた。なんでだろ? アルバド、魔法使った?」
「いや、そう言うんじゃないけど……。何だろうか?」
なんだろう、ホントに。
* * *
この谷に逃げ込んでくる人間は、俺たちの後にもぽつぽつと来た。
その魔人たちの情報によると、こういうことらしい。
機神は、最後の魔神である氷魔将と相打ちになって、消滅したらしい。
そして、その後。
魔大陸の主人、魔帝は。帝国大陸の皇帝との一騎打ちで敗れ、魔大陸は帝国大陸の支配下に置かれることになった。
そう言うことらしい。
悪い事ばかりだけど、たった一つ。
良いこともある。アームドアーマーの魔人狩りの標的にされることは、もう。
無くなる。
そういう規約を、魔帝が皇帝に約させたからだ。
それがなければ、魔帝はあくまでも皇帝と戦い抜くつもりだったらしい。
「私あっての魔大陸ではない。魔大陸あっての私だ」
魔帝は、そんなことを言っていたらしい。
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