39.ステッド
「ローニさん。アルバドが見当たらないんだけどさ」
「……あの子、逃げたわよ。もう、基地内にはいない」
「え?!」
「逃げたの。自分は役に立たないからって」
俺たちが。軍の手伝いをするって言ったのが気に食わなかったのか? 何考えてやがる、アルバドの奴!! 逃げるったって、どこへ逃げたんだ!?
「追いかける」
「ダメ。臆病者は、艦には置けない」
「……ローニさん」
「あたしたちだって。臆心に囚われること、しょっちゅうある。でも、魔族は対話が通用しない、人類の敵。そう強く思い込むことで、今まで自分を維持してきた。その私の目から見て。あの子は、帝国には居所はない。魔族を殺さないと、あたしたちがやられる。だから……」
「……アイツとは、長い付き合いだった……」
俺は、ゴミの街で兄弟みたいに寄り添って育ったアルバドのことが。恨めしく思えてきた。俺を、放っておいて逃げるなんて。せめて、相談してくれれば……!!
「補給がもうすぐ終わるわ。人員も積みなおした。アイン=カーンが出るまで、もう、一時間もない。ステッド君、君には勇気がある。力もね。アルバド君のことは忘れなさい」
「……くそっ!! アルバドのバカやろうっ!!」
俺は、本当に。悲しかったんだ。俺は、変な意味じゃなくてアイツが好きだった。どんな状態でも、差し迫った状態でも。なんか、不思議な柔らかさを持っていたあいつが。でも、その柔らかさが仇になって。魔族を殺せなかった。そのせいもあって、俺は右腕をうしなって義手になってしまった。でも、いら立ち紛れに罵ったりしたけど。
お前がいなくなるとは、思わなかったんだよ。アルバド。
「ステッド君。艦内に戻って」
ローニさんの声が。優しい。
「男の子に、離別は付き物でしょう。君は、君で。しっかり生きなくちゃ」
ローニさんが、俺を抱きしめて。頭をかいぐりしてくれた。
「そのうちに、アームドアーマーの乗り方、教えてあげるよ」
「……ああ。そうか。アルバドは、俺を捨てたんだな。だったら、俺はもうあいつのことは忘れる。ローニさん、軍で成り上がるには、戦功だよな?」
「そうね」
「そのうちに、大戦功を挙げて、成り上ってやる。アイン=カーンに戻ろう。もう、吹っ切れたよ」
「よし、男の子! それでいいの」
「ああ!!」
* * *
艦内の休息ホールで、俺はアシュメルとリーナに事の次第を話した。
「?! アルバド君が、逃げた?」
「ああ、アシュメル。さっきの軍港で。逃げ出したらしい。去り際に、ローニさんに『俺は役立たずだ』って言い残してな。全くだぜ、なあ」
「……アルバド君の意思がそうであるなら。僕たちには止める術はないね」
「チキンなのね、アルバドって」
リーナがそういう。俺も、その通りだと思いつつも。なんだか、イラつきが取れない。アルバド、お前、何を考えてやがるんだ……!!
* * *
「イメージで言うと。脊髄を使う感じかな。脊髄反応を制御する感じ」
ローニさんが、俺にアームドアーマーの乗り方を説明してくれる。アームドアーマーは、首の後ろにつけたセンサーで、脳電流を読み取り。運動信号として機械部に指令を伝達する。つまり、体が言うこと聞かなくたって、アームドアーマーを動かしたいと思えば動く。
「怖いのは、肉体疲労よりも脳疲労なの。何時間も戦闘を継続すると、脳内麻薬の分泌のし過ぎで、脳が焼けるわ。インターバルを挟みながら、戦闘を行わないと」
ローニさんの説明は分かりやすい。
要は、脳からの指令に素直に従う機械だってことだ。
「フライングギミックはまだ危ないから、使わせないけど。魔族との陸上戦闘は出来るように教えてあげる。次の戦場が、楽しみだね」
俺たちが砂漠で救助されたときにローニさんたちが見せた、あの凄まじい火力。あれが、自分の手で操れるというのは。
なんだか想像しただけで、ものすごく興奮する事だった。
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