第10話 緋色 ―ocean of genes―
(……水色の意識が強い?)
微睡みの中、
水色の軟弱な意志に興味はない。ただ、この短い時間で「水色の特性」について宿主が認識を始めた。その事実に、思わず、笑みが零れる。
遺伝子の海のなか。
妾の表情を見る者はいない。
そもそも、表に顔を見せた時から、妾の本当の表情を知る者は、水原爽しかいない。
(だが――それも一興、か)
生きることを望まなかった水色が、あれほど恐れた力を求めた。
(水色が、渇望するとは)
考慮するに値しない劣等種。実験サンプルの失敗作。そんな廃棄体を、余計な感情が邪魔をして、処理できなかったのは水色だ。
妾は思考を巡らす。
(水色は、相変わらず意志薄弱か――)
この世は生存競争、弱肉強食だ。強い種は生きる。弱い種は、食われる。ただ、それだのことだ。
脆弱なニンゲンがいくら保護を叫んだところで、絶滅危惧種がこの世界から退場するのは、生存競争ルールから見て、自明の理。
むしろ朽ちようとする存在を無理に保護しようとするから、生態系は乱れる。それが優性種である妾には不愉快でたまらない。
弱いから滅ぶ。ならば滅ばないよう、進化すべきなだ。環境に適応できなければ、そここで絶える。単純明快な論理だ。
力のないニンゲンほど平等を叫ぶ。努力も見せず、醜態を晒して。権利だけ、主張する。
実験室の研究者が、良い例だ。奴らは、自分を進化させようとは思わない。優性種の遺伝子情報を弄くりますだけで、満足。道具のように、優性種に命令をする。
そんな輩が、進化できるワケがない。
(まぁ……好きにすれば良い)
眠い――。
微睡みに身を任せ、遺伝子情報の海へと沈んでいく。
水色は手を差しのべたいと言う。
強欲で、理性で感情を制御できない、実験動物に対して「助けてあげたい」とは、なんという戯れ言だろうか?
(なんて甘い)
真実を知り、水色は絶望をするだろう。だが、それも経験だ。水色には経験が足りなさすぎる。ジブンが、肉食動物だという自覚をもつべきだ。
奴らの言葉を借りれば――。
妾達は、最初から実験する側なのだ。
(まぁ、良い)
(せいぜい、足掻け)
(実験室の標本になろうというのなら、それはそれで良い)
(戯れてみせよ――)
妾が目覚めるその時まで。
遺伝子情報越し、妾は水糸に囁く。
微睡み、
遺伝子の海の妾は落ちながら。
「「爽君――」」
水色の声に、無意識に妾も声を添わせ――。
そこで、妾の意識は落ちた。
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