第502話 俺カレ大混雑

翌日以降、松ちゃんは俺の機嫌を伺う様な素振りを見せ始める。

思うところはあるけど…関係を悪化させてやっぱやめた!とか言われちゃたまらない。俺は素知らぬ風に対応する。

…俺の兄貴分は決して悪い人じゃない…きっと自分の感情の取り扱いがわからなくて、玲奈さんも俺も手放したくないだけじゃ無いか?って推理する。


いつもの様で居て…でもいつもよりぎこちない俺と松ちゃん。

俺は宏介と相談した様に美味いものプラス付加価値で勝負したい。

でも、へそ曲がりでわがままな松ちゃんは意地でも『美味い』言わない様にするんじゃないか?って思う。


景虎さんは、


景虎『…だっけ、かえって勝負!って見せない方が良いんじゃね?

本気の1番を悟らせない様に小さく小出しにしてして言って、

本命でポロリと『美味い』って言わせるのが良いと思うわ。』


…それしかないよな。


香椎さんに頼んで作って貰ったクッキー(めっちゃ美味い)やパシリの際の揚げたてハミチキも食べるのを固唾を飲んで見守ると、


『…まあまあ美味い…。』


めっちゃ意識されてる。

…仕方ない…勝負は後半戦!

って割り切り俺はいつもの様に過ごす。


俺カレで食事中も松ちゃんは気を張っている。

俺カレ新商品コンペも続いてて料理勝負も変わらずしている。

すっかり俺カレに馴染む松ちゃん。

…そんなある日、


景虎『…!

良いところに!手貸してぇ!』


ランチタイムに俺カレに来店した俺と松ちゃん。

そこで見た光景は…激混みの店内!


景虎さんはマジ涙目で、


景虎『大学生のアイツが!夏風邪で!ダウンしちゃって!

今日若干手薄だったし、奥さん信くんの定期検診行っちゃって!

頼むよ!承!新二!』


『…松ちゃん!お願い!』


松ちゃんはえ?え?ってキョドりつつ腕まくり!

俺カレのピンチだもん!やるさ!

…松ちゃん大丈夫かな?


景虎『助かる!後でバイト代出すから!

承ホール!新二は…調理補助して?

指示出すから!』


承『ういっす!松ちゃん頑張って!』


新二『お…おう!』


バイトの保利くんが殉職しそうなほど疲弊して、女子大生バイトはヘタってなんか色っぽくなってた。

…殉職したら二階級特進でバイトリーダーになるのかな?


保利『…承くん!よくぞ…!』

女子大生『ハァン…♡来てくれて嬉しいよ…♡』


『すぐオーダー取って回って食器下げて来ます!』


俺カレてんやわんや!

フルにテーブルが埋まっている上にテーブル席本当に4人みっちり入ってるテーブルだらけ!


料理も遅れ、食器も下げれていない!

松ちゃんが厨房入れば料理出てくるスピードは上がる!

回転!回転をあげろ!


ホールが3人になった事でオーダーが手が足りて、ドリンクバーのグラスの補充や食器下げに手が回り、待ち客を通せる!

レジも!


景虎『はい!ハンバーグカレーとカレーうどん!』


新二『三ついっぺんにやんのー?!』


景虎『うるせぇ!『はい』か『了解』とだけ返事しろ!』


威勢のいい声が厨房から聞こえるw

景虎さんノッてる!

あの状態の回転について行けるの?松ちゃん?

って思ったけど松ちゃんは調理補助上手く回してた…。

料理勝負とかで何が何処にあるか知ってるしどんな調理するってのをわかってる。

客としてもよく来てるって理解があるのだろうけど初回の上、この混雑で対応出来るなんて意外だった。


新二『出来る事だけやる!わからないのは指示くれよ!』


景虎『新二!心の炎でハンバーグを焼け!』


新二『…できるかっ?!』


やべ、楽しくなって来ちゃった!

押し寄せるお客様を迅速丁寧に回す!

女子大生と保利くんと連携しながらホールをフォローしながら配膳、食器下げ、食器を軽く流して食洗機!案内!レジ!

水が流るるが如く!臨機応変に最善手を打つ!

待たせるな!急げ!


『ははは!ありがとうございます!』

保利『はい!ありがとうございます↑』

女子大生『あはぁ♡日替わりランチお2つになりますっ♪』


ランチ終わりの14:00まで駆け抜けた!

店内は一息ついて、もう時期夕方シフトバイトが来る…!

俺と松ちゃんはやっと解放されて、テーブルに着き。


黙ってハンバーグカレーを貪る。

…美味い…!


松ちゃんも何も言わないけど笑ってハンバーグカレーをむしゃむしゃ食べてる。


景虎『マジ助かったわ…。』


俺はタイムカード切った分に色がつく!

松ちゃんは受領書みたいなの書かされて、3千円貰ってた。

2時間ちょっとだからまあ妥当。


帰り道に、


新二『あんだけ?あんなに苦労しててんてこ舞いでぐるぐる回って…

3千円?おかしく無い?

労働基準法に触れてない?最低賃ってどうなってんの?』


『…いやそんなもんでしょ?世間的には。』


新二『俺…週四日。1日3、4時間労働で月100万位貰ってるけど…?』


時々忘れちゃうけど…俺の兄貴分は超上流階級…!

でも、疲れた疲れた連呼する松ちゃんは珍しく満ち足りた表情で笑ってる。



…コレだ!って俺は思ったね…!




☆ ☆ ☆

初めての労働   side松方新二


マジありえない。あんなにコキ使われて3千円…!

厨房は暑くて、景虎のおっさんはうるさくて、ホールの3人は最速で!最速で!って催促してくるばかり!

文句言おうにも横の景虎のおっさんは阿修羅か!って位の笑いながら怒ってる様な顔で、腕が何本もあるんか?ってほどの無双っぷり。


景虎『いや、新二マジ助かったわ!』


俺の背中を気安くバンバン叩いてタバコを咥える。


『…タバコはまずいんじゃ?厨房で?』


景虎『タバコなんかとっくにやめてる!奥さん怖いし信に良く無いし!

これはシナモンスティック!カレー漫画の主人公が咥えてんのよ!』


ああ!華麗なる…!

がっはっは!って笑いながら景虎のおっさんとしばしそんな話をしながらホールを見極め、


『ほい!ハンバーグカレー!』


俺と承はやっとテーブルに座って昼飯。


美味いって言わないように気をつけて食べる。

…まさか…あんな条件出しても…玲奈さんの解放を望むなんてな…。

でも勝負は勝負だから…。

…正直、もう俺は玲奈さんよりも承の方が大事って言うか手放したくない。

こいつが来てから俺の周りが変わった。

でも、どっちも手放したく無いが本音。


美味そうにハンバーグ頬張る承を見ながら、


(なんとか玲奈さんと結婚して…承に祝福して貰って一生2人を側に置く方法は無いものかな…。)


なんて思ってた。


承を帰し、俺はひとりで久しぶりにコンビニに行く。


ハミチキ5個、ポテチ3袋、コーラ2本…他に煎餅、チョコ、諸々買い込む。


店員『…2,680円になります。』


ポケットに手を入れるとさっき貰った3千円の入った封筒があった。

こんなはした金持ってても…封筒を手に取り戻した。


『…ペーぺーで。』


あんだけ働いてたった!たった3千円!

馬鹿らしい。

俺のおやつ代にしかならんのだぞ?


俺は毒づきながら封筒をそっとポケットに戻した。

…なんか勿体なくって使えなかった。

俺は自分の感情に戸惑っていた。

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