第497話 離れても家族

松ちゃんと新一さんが約束した日が来る。

宏介と愛莉さん、俺と紅緒さんのダブルデートの翌日だった。

…あぁ、無難に楽しかったよ?宏介もリラックスしてて。

宏介には愛莉さん合ってると思うんだけどなぁ。


松ちゃん家に13:30。

新一さんが迎えに来る。


新一『緊張するな…!僕たちってわかるかな?』


松ちゃん『…わかって欲しい。』


『きっとわかると思いますよ。

…家族だもん。』


松ちゃんの希望で俺はここに居るんだけど…正直場違い。

他人が居ない方が良いと思うんだけど…ママに認識されないこの兄弟とママを繋げる役目…重い役目だ。


今日は二人ともスーツじゃ無いただの夏服。

俺も同席するけど本当に緊張する。

これでダメなら…どうすんの?


車は一路松方本邸へ。

だんだん口数が減る松方ブラザーズ。

俺ばっかり話しててなんか変な感じ。

本邸に着き、執事のお爺さんが出迎えてくれる。


執事『新一坊ちゃん!新二坊ちゃん!よくぞふたりで…!』


やっぱ坊ちゃん呼びなんだ?まあいいけど…。

今日はそれどころじゃ無い。

執事さんに今日も案内されて奥の別邸へ。


ママ『…あらあら?今日は団体さんなの?』


松方ブラザーズのママは今日もぼんやり。

こんな大きい息子が二人居るとは思えないほど若々しいく童女のような無邪気さ。


執事『今日は…坊ちゃんたちがいらっしゃいましたぞ?』


ママ『…ぼっちゃん?』


ママは坊ちゃんって言葉に一瞬反応したけど流す。

…ふたりの悲しそうな顔。

俺は慌てて流れを変える。


『こんにちわ!』


ママ『あら元気な高校生の?』


『立花です!』


ママ『あらあらまあまあ!

クッキー焼いたのよ?食べる?』


『いただきます!』


恒例のティータイム。

紅茶とクッキー、人数が多いせいか市販のポテチも今日は付いてる。


ママ『…チョコチップクッキーもあったかしら?』


そう言って出してくれる。

今日は新一さん、新二さん、執事さん、俺と大所帯だからかな?

新一、新二兄弟は黙ってる。

…で気持ちはわかるかも。

母さんが自分を認識できなかったら…考えただけでぞっとする。


いつもの様に天気の話など無難話をする。


ママ『そうなの?おまつり…もうしばらく行って無いわね…。』


話に入れず新一さんはチョコチップクッキーを松ちゃんはポテチを齧ってる。

流れを変えたい…。

話振ってみるか!


『新二くん!ポテチ美味しい?ポテチ好きだもんね?』


新二『…あぁ、ポテチ好き…。』


ママはころころと笑って、


ママ『…うちのもポテチ好きでね?ポテチ一袋独り占めにして食べちゃうの…♪』


!!


松ちゃんと顔を見合わせる!


『新二くんポテチ好きですよねー?』


ママ『そうねぇ。』


勝負所だと思った。


『なんか子供の頃のポテチでした遊びとかエピソードトークとかして!』


新二『えぇ…?!』


松ちゃんは迷いながら、


新二『…ママ…俺が小1の頃…

買い置きのポテチが無くて…駄々こねて…家の者が買いに行きます!

って言ったけど…ママと手を繋いで買いに行った事あったよね…?

…覚えてる…?』


ポテチ無い位で家の者が買いに行く…?

常識が違う。

ママとお遣いくらいのエピソードだけど…話し方から松ちゃんの大事な思い出ってわかる…!


ママは薄ぼんやりと、


ママ『…一緒に歌歌って…海の歌?トンボの歌?』


松ちゃんは泣きながら、


新二『あと…本当はママが幼稚園保母さんになりたかったんだよって…!』


ママ『…なんでそれ…しってるの?』


ママは呆然としてる、貴女の息子だからですよ!


新一『僕も!僕もこのチョコチップクッキー大好きでほら!いっぺんに2枚食べれるってやってさ?』


新一さん食いつく!


ママ『…私は3枚同時に食べれるって…しん…いち?』


しばしの沈黙…。


ママさんは呆然としながら。


ママ『しんいち?しんじ?…なの?』


ふたり『『そうだよ俺(僕)だよ!』』


ママはまだぼんやり…でも少し意思を込めた口調で、


ママ『…おれおれ詐欺?』


『こんなセキュリティ御殿に来れる受け子居ない!』


思わず突っ込んでしまう。

松方家からお金引っ張ってこれたらすごい額巻き上げられそう!

…後が怖いけど…!


でも…ママの目の焦点があって来てる気がする…。


じわっとママの目に涙が貯まる。

手を伸ばしかけて引っ込める。

声を出そうとして黙ってしまう。

目を見ようとして逸らしてしまう。

歯がゆい!でも!これは家族の間だから!


新二『ママ…新二だよ…!』


泣きながら、松ちゃんはママを正面から見据えて宣言した。


新一『ママ、新一だよ!』


新一さんは滂沱と涙を流しながら。


ママはそぉっとそれぞれに手を伸ばす。

それを兄弟が両手で包み込む。



『『『…。』』』



言葉は無い。

ただ泣きながらお互いの顔を見つけるだけ…。


俺は一礼をして部屋から退出する。


ママ『…新一!…新二!』


あとは泣き声しか聞こえなかった。

…聞こえないふりするのは難聴系主人公だけでは無い。

紳士もまた必要時には聞こえないフリをするものなのだよ。


☆ ☆ ☆

執事さんが付き添ってくれて、本邸の一部屋麦茶とお菓子セットを運んでくれて、


執事『…ありがとうございます。

しばらくかかるでしょうし、少しお待ちくださいませ。』


と言われ、俺はお礼を言って頂く。

家が豪邸過ぎて落ち着かん…!


あっという間に1時間たった。

積もる話もあるのだろう。

俺はスマホ弄りながら時間を潰す。

…向こうで松ちゃんが望んだママとの本当の意味での再会を果たしてると思うと待たされてることもこの豪邸の居心地悪さも気にならなかった。


新二『…よう。承も来いって。』


松ちゃんが迎えに来た。

さっきよりだいぶ意識がハッキリした様子ママさん。

照れたように笑って、


ママ『…新二がお世話になってるわね?立花くんだったかしら?』


ふふ!新一さんも松ちゃんもママにピッタリ寄り添って。

微笑ましい。


ママは執事さんに手伝って貰って作りたいって言ってハンバーグを作った。

お世辞にも上手く無い。しかもまだ15時だよ?


でもこの兄弟は美味い美味いって言いながら泣きながらそれを食べ切った。

俺ももちろん完食。


新二『美味い、美味いよママ!』


松ちゃんが好きな料理は…唐揚げ、ハンバーグ、カレー、ラーメン。そのうちラーメン以外はママの手料理。

普段専属料理人が作ってくれるご飯だけど、時々ママが自分で作ってくれる思い出の味。

それを兄弟は堪能して泣きながら笑って食べていた。


ママ『…いつでも遊びに来てね。

…立花くんも。』


新一『…必ず来るよ、新二と一緒に。』

新二『あぁ、毎日の様に来たい位。』


再会(?)できた家族はまた別れる…。

でも今度はいつでもまた会える別れ。

松ちゃんと新一さんの顔はコレまで見た事ない満足そうな顔だった。

車の中は居心地の良い沈黙で車は軽快に走って松ちゃん宅へ戻ったんだ…!


☆ ☆ ☆

『ただいまー。』


母『あら、承おかえり♪

母さんも今帰ったところ!すぐ夕飯作るからね?』


俺は少し照れながら切り出す、


『…今日なんだけどさ…俺カレ行かない?皆んなで?』


母さんは少し驚いて、


母『えぇ?お金かかるよ?母さんパパッと作っちゃうから!』


いいの!いいの!俺のおごり!

俺はゴリ押しで俺カレ招待!


父さんだけ残業で行けない。

母さんに運転してもらって祖父、祖母、俺、望、ひーちゃんで俺カレ。


母『母さん俺カレのカレーだーいすき♪』


『…今日は俺出すから。好きなの食べてよ?』


景虎さんに冷やかされつつ、テイクアウトで父さん用ハンバーグカレーとケーキを人数分プラス1買う。


家に帰ってケーキを皿に盛り付けて皆に配る。


望『最近ケーキ率高いー!ひゃっはー!』

ひー『ケーキおいしいよぉ!』


母『カレー→ケーキしゅごい♪

何もしないで美味しいもの食べられるの最高!

承ありがとうね♪』


俺は…照れくさいけど…目を見て言った。


『…母さん、いつもありがとう。

…もう一個ケーキ入ってるから…明日もう一個食べて?』


母さんは嬉しそうに微笑んでありがとうって微笑んだ。

それは俺のセリフなんだ。俺が一回ありがとうって言う間に2回母さんが俺にありがとうを言う。感謝したくてやったのに母さんに感謝されちゃう。

…俺は愚かな男だからこうゆうタイミングでしか感謝を伝えられない。

…いつも感謝しているのは本当。

でも人は節目でしか大事な事に気付けない…。この世は感謝しなきゃいけない事で溢れてる。

それって有り難いことだなって思うんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る