第444話 永遠の未来
面談が終わり、母さんは車で家へ帰る。
一緒に帰る?って言われたけど自転車あるから乗って帰らないと明日どうすんの!
母さん『じゃ、夕飯ハンバーグだよ!早く帰っておいで!』
…俺を子供だと思ってるんだろう…早く帰るか…。
そう思いながら思い立って母さんにご飯多めに炊いてってロインを入れる俺。
ハンバーグでご飯3杯いける!
そのままロインチェックするといつもの社会科教室に居るよって紅緒さんからロイン来てた。
…自販機でアップルティーとコーラを買って俺は階段を上り出す。
特殊教室棟の4階。真ん中あたりのいつもの部屋。
ガラガラって音を立てて扉を開けると居るのは紅緒永遠ただひとり。
紅緒『ママには先に帰ってもらったんだ…。』
しっとり優しく呟くように言う。
お前の家すぐそこでしょ?なんなら見えるじゃない。
紅緒『承くん、三者面談どうだった?』
『どうだったって…あ!』
俺は知っての通り四年制の大学へ進学を考えていた。
…さっきの三者面談でお金かからないで4大行けないですかね?そう聞いたらさ?
『あったんだよ!
各省庁の育成機関みたいの!
…俺、防衛大…防衛大学校の話し聞いて…!』
俺は語る。
四年制の大学と同じ教育機関でもあり、入学金もかからず!自衛官に任官すれば学費や制服などお金かからないんだって!しかも準公務員扱い?で僅かながら給与も貰えるとか!他にはありとあらゆる運転免許取れたりするらしい!
…問題は大変厳しい学校で全寮制の相部屋でガチな訓練や大変な階級社会でダメな人は全くダメらしい…!あと偏差値60位必要?体力超必要。
…身近な自衛官…元自衛官だった景虎さんに一度相談してみよう!
誰かの為に何かを守れる…これかも知れないって思った。
そんな話を紅緒さんにする。
頬杖ついてニコニコしながら聞いてくれる紅緒さんは夕方の光に照らされて…大層可憐で儚い。
紅緒『…そっか…承くんも夢…進路が見えてきたんだね…。』
俺ばっかり話しすぎちゃった…
紅緒さんが話し始めるのを俺は聞く姿勢。
この黒髪目力美少女はどんな進路を?未来を思い描いているのかな?
紅緒さんほどの頭脳ならよっぽどじゃ無ければ進学先は無限大。
何処へだっていける。もちろん心臓や体力にことは考慮せねばならないが。
青井や伊勢さんみたいに自分の夢を確定させる人も多い年代。
自分がその夢のカケラを見つけたからきっと紅緒さんもそうなんじゃ?って思い込んでいた。
その整った口から出た言葉は…
紅緒『…私には夢が無い…からっぽなの…。』
捨てられた子犬のような悲しい瞳。
その瞳を潤ませながら紅緒永遠は語る。
以前も聞いた心臓が悪くて倒れた暗黒時代。
念願叶って東光高校への入学。
初動の失敗からの完全アウェーから…俺のおかげで(紅緒さんが言った)リカバリしての今の楽しく充実した日々。
『嬉しく楽しくて毎日が夢のよう…そう夢のようなの…。』
思いつめた瞳にに強張る表情。
『怖い…私ここに居るよね?
これ夢じゃ無いよね?』
涙ポロポロこぼしながら紅緒さんは俺を見つめる…。
夢じゃないよ!そう言っても何にもなりはしない…。
そっと、遠慮がちに紅緒さんは俺に横に座り…そっと抱きついた…。
俺好きな娘が居る!
…でもこれはちょっと違う…そんな気がした。
本当に落ち込んでたら宏介だってあっちゃんだって俺ハグ位するわ!
紅緒さんは照れながら、
『…えへへ…拒まないでくれてありがとう…
暖かい…夢じゃないよね?こんなに暖かくて…安心する匂いがする…。』
『…俺におう?』
紅緒さんは目をパチクリして、
『ううん?お日様みたいな…暖かくて…優しい匂いするよ。』
『…おう。』
※承くんは玲奈さんのリアクションから自分の体臭にナーバスですw
落ち着いたのか紅緒さんは抱きつくのやめて…手を繋いだ。
…なんだろう?罪悪感?しっくりこない感覚…
でも今は情緒不安定な紅緒さんを安心させたい。
起きたらこの生活が夢で…本当は入院してしわくちゃになって痩せ衰えた自分が絶望する光景を夢にみる…!
これも後遺症の一種なんだろうか?
紅緒さんは寝たがらないって伊勢さんが言ってた。
仕事やできる事を翌日に持ち越さないせっかちさんだと思ってた。
…紅緒永遠は明日を、未来を怖がっていた?
『はは…先生に何処でも進学出来ますよ!
志望校は?って聞かれて…東光高校って答えそうになったもん…はは。』
『…。』
『…みんな夢を見つけてる。
将来なりたい自分、憧れの姿、理想の私…
…それが私には無い。』
紅緒さんの夢は【赤ちゃんを産む事】
…夢が無いって言うのは将来の展望や自分の理想が無いって意味なんだろう。
俺も青井や伊勢さん、香椎さんの夢を聞き置いて行かれたような自分が子供だと思い知らされたような感覚があったからなんとなくわかる。
でも、紅緒さんのソレは…虚無と言うか…
今まで紅緒さんは『現在』で手一杯で明日明後日とかならまだしも『将来』
を考えて…いや考えないようにしてたのかも…。
体調面の不安、自分の残り時間などまだ16の女の子が抱えるには重たい悩み。自分がいつどうなるかわからないって不安といつも戦っている、そんな女の子だった。
…陽気で頭良い割におバカな事ばっかり言ってる空気の読めない学校1番の美人。
…虚勢を張ってなんでも自分の理想通りに上手く行かせたい自分の夢に雁字搦めな泣き虫な女の子…
どっち紅緒永遠。
『はは…承くん…私ね?怖いんだ。
あんまり望を持つとダメになった時怖いから、がっかりするから。
あれやりたい!心臓が悪いから無理…私はコレを繰り返してきた。
…入院中に信子ちゃんと将来を語った。
医師、看護師、教師…出した職業は心臓的にも体力的にも無理なのばっかり!
…私は夢を絞った。
赤ちゃん。赤ちゃんだけは譲れない。
…でもそれ以外…自分がどうなりたいとか無い。』
しんみり。
紅緒さんは泣きそうな顔で語る。
…俺が言える事…。
『…それを探しに大学行けば良いんじゃ無い?』
『大学で探すの?』
『まあ就職でもいいけど?
大学で色んな人に会い色んな事を学び成長して…自分の夢…赤ちゃん以外の並行して出来るコレしたい!って道を探したらいんじゃ無い?』
『…私…探してもいいのかな?』
『東光に来て色々知ったし見つかったでしょ?』
紅緒さんの顔がパッと明るくなる。
彼女にとって東光は憧れで理想である意味最終目標だったんだろう。
『クリア後の裏ダンジョンみたいなものかな?』
それでいいよ(笑)
ひとしきり笑った後で紅緒さんはにっこり笑って両手を広げてハグ!ってポーズで、
『…未来を決めるってこわい部分もある…かな?
でも…まあ?
承くん♪赤ちゃんちょーだいっ♡』
『始まったよ…。』
『ふふ!恥辱の三者面談…先生そこは進路じゃありません…!』
『お前は何を言っているんだ?』
冗談めかして言うけど…紅緒さんは少し情緒不安定に見えた…大丈夫かな?
☆ ☆ ☆
承に家まで送ってもらい、自転車で走り出す承を見送る永遠。
『承くん…ありがとね。』
紅緒永遠は立花承が大好き。
承は恩人であり師匠であり親友であり初めて本当に好きになった男の子。
彼の心に住んでる娘が居るって知ってても、その娘が強敵で魅力的なのもわかってるけど諦められない。
…でもその娘の恵まれた境遇に黒い感情が芽生えてることも自覚している。
ライバル…大好きで大嫌い。紅緒永遠は初めての感情を持て余していた。
☆ ☆ ☆
前話異常に短いのはこっちパートを入れないでアップしてしまっていたからです…。
紅緒さん話しまったく入ってない?!って一眠りして気付いたw
まだ体調悪いんだねw
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