第420話 好きだよね?【side立花望】

翌日木曜日。


『…むにゃむにゃ…。』

ひー『ねえちゃん!ねえちゃんおーきて♪』


目を覚ますと視界いっぱいに天使ひーちゃんの笑顔♡

あたしは抱きすくめて、


『おはようのちゅうしちゃお♡』

ひー『…。』


ひーちゃんもして欲しいのか両目を瞑って身体を硬くしているよ!


『ちゅっちゅっちゅ!』


短時間でいっぱいひーちゃんにキスする為に生み出されたキツツキキッスで今日も姉からの愛を余すことなくひーちゃんぷくぷくほっぺに叩き込む!

※ひーちゃん無の表情。


『にいちゃん!

…ってもう起きてんの?』


ひーちゃんはきらきらおめめで、


ひー『うん!にいちゃんもうごはんたべてるよ!』


『ちっ…起こしてくれればいいのに…。

よいしょ。』


あたしはひーちゃんをサーフボードみたいに小脇に抱えて一階のキッチンへ降りて行く。


…どうしよう…にいちゃん怒ってるかも…

昨日言い過ぎた…やっぱり雰囲気的にもひーちゃんは必須だよね!

忙しい朝のキッチンでさりげなく…さりげなく…



☆ ☆ ☆

『おはよ!』


母『おはよ。』

祖父『おはよう、のぞみ。』

祖母『はい、おはようのぞみちゃん。』

兄『…。』


うちは健啖家揃い。

むっしゃむっしゃ音を立てて食べてる祖父母と兄。

母さんはお弁当の仕上げ中。


『…ウインナーにマヨネーズびしゃがけー♪』


…いつもなら全部かけんなよー!とかケチャップがいい!って言う兄ちゃんは…もう自分の分取り置いたのか…文句も言わない…。


黙々と…でもしっかりバランスよく食べる兄ちゃん。

…私の席は兄ちゃんの横。いつもおしゃべりし過ぎて食べるに集中しろ。とかバランスよく食えとか言ってくれるのに…。


ひー『にーちゃん!ウインナおいしいね?』


兄ちゃんはふふって笑って、


『ウインナーな?最後のばすの。』


ひー『そうだった!』


ふふ!はは!


『ウインナー好きだもんね?ふたりとも?ともぐい!』

※下ネタ


ひー『すき!』

兄『…。』




…。



ごめんなさいって言えば良いんだけど…あたしは言いたく無かった。

だってさ!あんなに応援してる!あたしの試合見たい!って言いながらさ?

一度も見に来てくれないじゃん!

勝って貰ったラケットとウェアで兄ちゃんが応援してくれたからあたしこんなに!って見せたいんだもん!

いつもなら言わなくてわかってくれるのに!なんで?!

そりゃ…昨日は言い過ぎたかもだけど…それすら許容する寛大な兄であってほしいな!



『…そんな器の狭いちっちゃい男だと香椎先輩ほかの男に持ってかれちゃうよ?

その頃僕が先に好きだったのにBSS!BSS!って言っても遅いんだよ?年上の男とかに娶られる香椎先輩見て悔しがっても(笑)』

※クリティカル



兄ちゃんは一瞬キレた…!


『…ひっ!』


びくってなったあたしに兄ちゃんは、


兄『…もうしゃべんな。』


冷たい冷たい声で言う…

…うそだぁ…妹大好きなクセに…大好きだよね?


あたしはいいこと思いつく!

兄ちゃんが最後に残してたウインナー…!


『もーらい♪』


…兄ちゃんは今日初めてあたしと目を合わせて、





『…ちっ…。』



あたしをすっごい冷たい目で睨んでさっさと支度して登校しちゃった…。

ひーちゃんはあわててにいちゃんを見送りに行った。

戻って来て、


ひー『…にいちゃんちゅかれてるんだよ。

あるばいとやばすけでいそがしいんだよ?

ねえちゃん?』




…奪い取ったウインナーは全然美味しくなかった…。

あたしも登校するから支度して…ひーちゃんが玄関で見送ってくれる…。



ひー『にいちゃんいそがしいんだね?

ねえちゃんもやさしくね?ね?

ぼくなかよしきょうだいがすきだなー?』


『…いってくる…。』


あたしは足取り重く登校したの…。



☆ ☆ ☆


緑『!!』


あたしの顔見て緑が朝からお菓子をあたしの口に捩じ込む。


『ひらはい。』

※いらない。


きい『そう言いながら咀嚼する望…!』

茜『重症だよ!』

芹『野生動物でも保護されるレベルだよ!』


『大げさだなぁ。』


緑『覇気がない!』

きい『目に力も無い!』

茜『優しさを忘れた機械仕掛けの人形!』


…じわぁ…

目に涙が溜まる。


芹『茜ちゃん?!そこは胸が無いとか?!』


『『『芹?!』』』


つー。

涙が溢れた。


緑『どうしたの!大会直前に!』

きい『大丈夫!大丈夫!望は可愛い!テニスつよい!』

茜『無表情に泣かないでぇ!芹ママ!』


芹『え?え?』


…なんか芹に抱きしめられて、茜に髪を撫でられ、きいが褒めてくれて、緑はどうしたの?って聞いてくれる…。


『『『無音で泣かないでぇ!』』』



☆ ☆ ☆

『…ってわけ。』


緑『…昼休みまでかかるとは…。』


きい『こんなにブラコンなのに何故よりによってこの時期に…!』


茜『承くんが望をそこまで突き放す?何か言ったんでしょ?』


あたしが情緒を取り戻したのは昼休み。

おべんと食べて親友sから口に差し込まれるおやつを全部平らげてから少ししてのこと。

…なんかルパンから宝物守るすっごい金庫のキーを開錠する特殊な鍵を差し込む絵に似てた。


きい『ブラコンのクセに大会直前にケンカするなよぉ!』


茜『…間に入ってフォローするひーちゃん尊い。』


芹『そうだよ、望ちゃん言い過ぎたじゃない?

そうだとしても本質はお兄さんに試合で勝つ姿見せたくて観戦に来て欲しかったんでしょ?


…そうだけど…


芹『第一!香椎先輩をディスっちゃダメ!絶対それがお兄さんの気持ち逆撫でしたよ!』

※芹は香椎教信者です。


茜『まあさ?今日は部活もう仕上げ段階で短い調整とフォームチェックでしょ?帰り望んち寄ってさ?

ひーちゃん愛でて、お兄さんと橋渡ししてあげるから!』


『ほんと?!』


5時で部活は終わり、真っ直ぐ家に帰る!

親友sを連れて!


ひー『おねえちゃんたちいらっしゃい♪』


『『『『ひーちゃん♡』』』』


親友sがひーちゃんに夢中になってる間に祖父に聞く、


『…ねぇじいちゃん。

兄ちゃんは?』


祖父『承くんは今日アルバイトで遅くなるって。』


『…そうなんだ…。』


あたしはしょんぼりしながら親友sにその旨を伝えた…。

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