第30話 昏倒と傾倒 【青井視点】
俺は子供の頃から自分が強いと思っていた。腕相撲でも誰にも負けないし体力測定でもかなり上位のフィジカルエリートだと思っていた。
中学で始めた剣道でも腕力は武器だった。強ければ文句も言われない。まだ勝てない先輩は居るが直に追い抜ける。
ダチの外町は頭が良くて人望がある、中学に入って外町の頼みで陰キャをいじることになった。その立花は厚樹の子分みたいなやつで厚樹が転校後も一丁前に気弱なやつへのいじりに口答えしてきたりする奴だったから俺も異存なかった。
みんなでクラス委員長に推薦して言うことケチつけて、嫌がらせして、悪口言って、クラスメイトに協力させて全員で否定したり、提出物に細工して謝罪させたり、教師に悪口吹き込んだり思いっきりいじめてやった。
委員長首になった時はめっちゃ笑った。
あーこれで終わりか、あんだけ追い込まれたらもう学校これないかもなって思ったけど普通に来やがった。
もうやっちまおう。
イライラした俺は田中や佐方をいじりまくって、暴力を振るったら佐方はすぐ学校に来なくなった。まあ普通はこうなんよ。
1回待ち伏せたが負けた。俺はそれが許せなくて翌週立花を見つけ走って追いかけて河川敷公園でやっと追い詰めた。
走りすぎて呼吸は苦しく足にきてる。
立花は変なことを言い出した。
『青井、3分やる。
息を整えろよ。』
『はあはあ、立花、余裕じゃねえか!』
(マジか?バカなやつだなw)
俺は助かったと思った。
息さえ整えられれば最低でも負けるわけがない。
思いっきり拳を振るって罵る。
『いつもヘラヘラ!うぜえんだよ!陰キャが!』
『意味わかんねえ』
でも当たらない、またすぐ息が切れてきた、まずい。
『もう飽きた、青井!次は避けないからマジでこいよ?』
『なめやがって!!』
俺は激怒した、こんなに下に見ている奴に!
立花は本当に避けなかった、当たりさえすれば俺が勝つ!右拳が立花の左頬に入った、決まったと思った。
次の瞬間スローで見えた。立花が右拳を小さく振り抜くと俺の左頬に入った。
視界がグラングランしてる、足に力が入らない。ゆっくり立花の拳が顎に当たる?
気がつくと地面に寝ていた、気持ち良い?なんで?
何時?何してるんだっけ?
なんだかぼんやりしてどれくらい経ったかわからない。
俺!立花と!
やっと記憶が繋がった。
まだぼんやりしているが体がなんかで縛られている?
なんか話し声がした。
俺のこと?よくわからないけどだんだん覚醒したきた。
でも起きたってバレるとまずいことになるかもだからしばらく気絶したふりして周りの様子を伺うことにした。
立花が誰かに話しかけている?
多分そそのかしたのは外町でなんかいいように狂犬のような扱いで外町グループの先鋒で武力担当なんだと思う。
まだ小学生だった頃、あっちゃん達と一緒に何度かカブトムシを捕まえに行って俺が全然とれなかった日に青井がクワガタを一匹くれたことがあった。なんて言ってた
確かにそんなこともあったかもしれない。
立花は続けた。
獲物を罠に嵌めて狩るような倒し方をして青井が納得できるだろうか?
もちろん勝たなければならいのだが策で勝つと遺恨が残る。
あっちゃんちで読んだ暴走族漫画で名門暴走族の総長が言ってた。
だから最後は総長同士のタイマンで決着をつけるんだって。
あとさ、香椎さんがクラスのことで悩んで。いじめ、いじりに心を痛めて。
今回も首を突っ込んで。あの子は自分がなんでも出来るって思ってるんだ。
本当にみんなが笑顔になればいい、その為に自分がうまくやればいいって思ってるんだ。俺はそれを叶えてあげたい。
それには遺恨をできるだけ残さない。
そう立花は言っていた。立花も香椎好きなんだな?あいつモテる女だしな。
俺は口うるさい女はダメだけど。外町も香椎好きだよなあ。
思い返す。
『青井、3分やる。息を整えろよ。』
確かに立花はバテてる俺を待ってくれた。
『青井次は避けないからマジでこいよ?』
1戦目もだが必ず一発俺に殴らせてから殴り返してきた?
信じられない、こんな男いるか?
俺はショックだった。
『処す?処す?』
多分佐方だ、あいつに暴力振るったな、仕返しされるのか…。
立花は佐方を止めた。
とりあえず話をしてみようって言った。
俺も話がしたい。2回負けたからもうまぐれじゃない。
そこまでの男を俺はいじめていたのか?
いじめた俺を遺恨残したくないってフェアにケンカしてくれたのか?
俺は立花のことが知りたい。外町が言う厚樹の腰巾着で口ばっかりの陰キャ野郎じゃなかったのか?
そのあと立花は言った。
『話してどうしてもダメなら、いじめや暴力を止めれないなら…俺が…』
俺は息を呑んだ。この場に臨む覚悟が俺と立花では全然違ったんだ。
俺は初めて立花が怖くなった。
雑談で知った。この周りには落とし穴3個も掘ってあるらしい。
本来の作戦では落とし穴に落としてダメージで動けないところを用意した結束バンドで拘束して精神的に追い込んでなんなら失禁する所まで詰めて動画を撮影してそれで脅す予定だったらしい。俺は驚愕した。
(もう立花に助けてもらっていたんだな…。)
何人か集まっていて変装して俺を脅す用意をしているみたいだが全員揃ったのか?
そろそろ覚悟決めて起きるか。総掛かりででボコられるだけのことはしてきた自覚がある。
目を開けると光る蛍光色の仮面をつけたのが6人。それぞれバット、トンカチ、骨太な傘、釘バット、でっかい三角定規?!
あれはヘッドが3つ付いてる鈍く光る業務用ハンドミキサー?俺は思わず二度見した。
ハンドミキサーが1番怖い。
立花以外に6人か。恨みかってるな。
さすがに怖い。
『起きたか青井。』
『ああ。』
『お前の負けだ。』
『ああ。』
俺は2度負けた、もう喧嘩する気は無い。好きにしたら良いって伝えた。
じゃあ俺と話そうか?って立花はぽつぽつと自分のことを話し始めた。
内気だったこと、厚樹と出会ったこと、武将オタクなこと、漢でありたいこと、香椎がいじり、いじめのことに悩んでいること、気弱な3人が俺のいじめに苦しんでいること。自分もいじめられて辛かったこと。
俺の話をしてくれって言われた、腕力に自信があったこと、強さにこだわりがあること、勉強は苦手なこと、昔の剣豪が好きなこと、実は甘いものが好きなこと、陽キャに憧れがあって調子に乗ったこと、そして立花の3分待ったり、先に殴らせたことに感銘を受けたこと、俺も漢になりたいこと、もう2度といじり、いじめをしないこと。
縛られて転がされながら1時間は語った。だれも茶化さず邪魔せず、お互いに独り言のような不思議な会話。
そして立花はもう2度といじり、いじめをしないって誓えって要求してきた。
(誓えってそんなの口約束だろ?)
『漢同士の約束だから破ったら死ぬまで恥じてもらうから。
俺が忘れても青井は自分が誓いを破ったことは忘れないはずだろ。一生自分とは付き合っていくんだから。』
(ああ、立花承はこういう漢なんだな。俺を漢と見てくれているんだな。)
俺は心が熱くなり涙が止まらなかった。
『誓う。ここにいる男達が証人だ。』
『くちゅん♪』
女のくしゃみがした。
『おばちゃん!しーっ!』
『おばちゃんは止めてって言ってるでしょ!』
たぶん業務用ハンドミキサー持ってる一番ヤベえ奴香椎で三角定規は小幡だわ。
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時々香椎さんは小幡さんをおばちゃんって略してしまいます。
『おばちゃん!あ!』
『玲奈マジやめて?』
おばさんと呼ばれるのだけは小幡さんは嫌なんです。
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