第19話
お金を払えという僕の申し出。
「……ッ」
それに対して中年の男性は眉を顰めて不快感を表に出す。
「……そんな顔をされても譲歩は出来ないよ?これは僕に許された当然の権利だ」
「わ、我々は人々のために……」
「わかるよ。君たちの気持ちは……僕ら呪文研究者への富の集中具合は凄まじいものだろう。僕らが少しでも持っているお金を貧民に配れば、もう少し特許を安価で売れば……より多くの人が救われるだろう。僕らが譲歩するだけで何万と言う人が救われる。だが、僕らは決してそれをしない。他人を救うことを第一とする君たちにとって僕らは唾棄すべき相手だろう」
昨今の呪文研究者へのヘイトは凄まじいものとなっている……というか、社会全体の流れとして僕らのような呪文研究者や宗教関連の人間など、特権階級に対する反発が強い。
……だからこそ、僕らもなかなか引くに引けないんだけどね。
「君らの目的が高尚なのもわかる。自分の死を前にしてその状況を打破するために強い魔法を使いたくなるのもわかる。しかし、僕にとってそんなものはどうでも良いんだよ。ただ、僕らは自分たちの特権が守れればそれだけで。僕らにあるのは呪文だけだ。簡単に真似することが可能な呪文しかない……この呪文という権利を奪われるわけにはいかないんだよ。僕たちは。例外は認めない。これが僕の答えだ」
自分たちの特権を守る。
これは呪文研究者共通の理念であり……これに僕が歯向かったりしたら僕が他の呪文研究者から叩かれてしまうだろう。
……この世界で最も進んだ武力を持ち、膨大な金を積み上げてもなお、世間を敵に回し、過去に軽視された歴史を持つ呪文研究者はいつまでも経っても安心感を得ることが出来ずにいるのだ。
「金、払え。僕から告げるのはそれだけだ……それを拒否するなら武力を行使して徴収する。どうする?誰が払う?ギルドか?そこの違反者か?そこのしょうもない実力しかないボディーガードか?それとも全員か?」
僕はあくまで笑顔で要求をただただ一方的に告げる。
「君らに許された選択肢は金を誰が払うか、ただそれだけだ……ものでも金でもどちらでも良いよ?重いもので渡されたときのためにリスタという荷物持ちもいるからね?」
「えっ!?そのために私が呼ばれたんですか!?……あっ」
「うん」
僕はいきなり話題を触られ、思わずと言ったようすで叫んだリスタの僕に頷く。
「で?どうします?」
そんなやり取りを挟んだ後、再度目の前の人達へと問いかけた。
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