第一章

第1話

 ありとあらゆる魔法を発動させるのに必要な呪文。

 それに特許が突き出したのは今より300年も前の話だ。

 新しい魔法の呪文を研究する研究者たちの収入の少なさに新呪文を開発したことに対するメリットがほとんどなかったという事実からどんどんと研究者の数が減り、研究者自体も貧困にあえいでいるという酷い状況を改善するために作られた特許制度。

 

 この制度は呪文の研究者たちを救うと共に彼らを特権階級へと変えた。

 そして、その特権はどんどんと大きくなっていく。

 魔法の呪文は武力に直結する。

 特許申請のために普段引きこもっている研究者たちが外に出るようになったことで研究者同士に横の繋がりが出来てしまったことで研究者たちの持つ武力が飛躍的に上昇していった。

 引きこもり研究者が団結と協力を覚えたのである。

 

 いつしか一国を滅ぼすほどの武力を握っていた研究者たちの発言力は国に迫るようになり、いつしか特許庁は国の管轄ではなく研究者の管轄に。

 呪文研究者組合で運営している特許庁もあれば個人で運営している特許庁もあるというとんでもないことになっていった。


「奴隷制が既に廃止されていることは当然知っているよね?」


 魔法を使うのに特許料が必要と言う夢も希望もない異世界において個人で特許庁を運営している元日本人の僕、アレス・ヴィンセントはいきなり店にやってきて『奴隷にしてください』などと叫んだ少女を店の奥へと案内し、彼女と顔を突き合わせてこの発言について問い詰めていた。


「は、はいぃ……わかっています」

 

 少女は瞳に涙を浮かべながら僕の言葉に頷く。


「奴隷の所持、奴隷の販売、奴隷の確保は重罪である……それを知りながら奴隷にさせてくださいとはずいぶんな話じゃない?ただでさえ悪い特許庁の印象が更に悪くなると思うんだよ……これは一種の営業妨害だと思うんだけど、君はどう思うかな?」


「あっ……その、ごめんなさい……私もその、色々とテンパっていましてぇ」


「まだ君と出会ってから僅かな時間しか経っていないけど……それでも君がテンパっているということはわかるよ。別に僕はいきなり怒鳴ったりしないから。君の事情を聞かせて?焦らず、ゆっくりで良いからね。所詮客なんてほとんど来ないのだし」

 

 今日、既に僕のお店に二人来た。

 これだけでも人だけ見れば快挙と言えるのだ……まぁ、二人とも客と言えるのかは怪しいところではあるけど。


「わかりました……」


 少女は僕の言葉に頷き、ゆっくりと自分の事情を話し始めた。

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