こちら成金異世界転生者の魔法呪文個人特許庁~魔法呪文を大量に持つ僕は特許料だけで貴族を超える大金持ちとなり、一生遊んで暮らしたいと思います~

リヒト

プロローグ

プロローグ

 この世界の人間に宿る神より与えられた奇跡である魔法。

 その魔法を発動させるのに必須とも言える魔法の呪文……それに特許がかかり、金銭が必要になったのは何時頃であろうか?


 金持ちは多額の特許料を支払って強力な魔法の呪文の数々を使えるようになり、貧乏人は特許が切れた型落ちも型落ちの古い呪文で魔法を使うことになる。

 才能や努力ではなく持っている金の多さで魔法使いとしての強さが変わるあまりにも残酷な世界。


「……っごく」

 

 そんな世界で今、呪文の特許を手にしようと個人経営の特許庁へと入るための扉の前に立つ少女は金銭に余裕のない哀れな貧乏人であった。


「し、失礼します」

 

 勇気を決して扉を開け、中へと入った少女を待ち受けていたのはあまりにも酷すぎる現実であった。


「貧乏人にやれる特許なんてねぇんだよ!」


「頼む……!頼む!どうか!どうか恵んでくれぇ!俺がァ!俺が成り上がったら何倍にもして返すから!」


「俺ら特許売りは投資家じゃねぇんだボケェ!金ねぇやつには売らん!金持ってから出直してきやがれッ!」


「頼むッ!ここでッ!ここで売ってくれなきゃ職が……ッ!金が……ッ!俺の妹の病気を治すための金がッ!」


「俺の知ったことかッ!テメェら兄妹諸共死にやがれッ!」


 少女の目に映ったのは貧相な服を身にまとい、小汚い一人の大男がゆったりとした質の良い服に身を包む少年の足元にすがり、必死に懇願の言葉を口にしているところだった。

 

「……テメェ!」


「あぁん?テメェのような貧乏人が俺に勝てるとでも思ってんのかァ!?」


「……クソぉッ!」

 

 貧乏人と金持ちの力量差は大きい。

 強力な魔法を使う金持ちには貧乏人がどう足掻こうとも勝つことなんて出来ない。

 涙をポロポロと溢しながら蹲る大男へとまるでゴミでも見るかのような視線を向けている少年に少女は恐怖の感情を抱く。


「ん?お客さんかな?」

 

 店の中に少女が入ってきたことに気づいた少年が少女の方へと視線を送ってくる。

 その視線は先程まで涙を流して蹲る大男へと向けていたゴミを見るようなものではなく実に優しげな視線であった。

 

「……ぇ、あ……」


「ん?どうしたのかな?ここに来たってことは特許を買いたいんだよね?」


「……ぁ、ぁ」

 

 少年に対して一度、恐怖を抱いてしまった少女は竦んでしまって二の句が告げられなくなってしまう。


「その制服は王立魔法学園のものかな……?うーん、と。安めのやつが良いかな?」

 

 ここまで一切笑みを絶やさず、優しく声をかけ続ける少年に対して少女は恐怖を抱き続け……彼女の頭の中で様々な考えごとやら不安やら恐怖やら少年に対して伝えたいことやらが暴走してめぐり続ける。


「わ、わ、わ、私を奴隷にしてくださいッ!!!」


 そして、その果てにとうとう決壊し、少女の口からとんでもない言葉が飛び出す。


「……はぁ?」

 

 いきなり叫んだ少女の言葉に少年は怪訝そうな表情を浮かべ、疑問の言葉を口にした。

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