道つなぎの電脳空間

@a-eiji

プロローグ

 エラー音が鳴った。その音は一人のユーザから始まった。そのユーザは没入型のゲームであり、脳みそを強制的に眠りにつかせて擬似的な夢を見させる機械を通してゲームの世界に入り込んでいた。


 ユーザは不審に思った。いくら終了ボタンを押してもだめだった。終了ボタンはエラーを吐くだけで、終了できなかった。そのユーザはすぐに近くの仲間に知らせた。エラー文にはこのように書かれていた。



「申し訳ございません。ただいまあなたのシステムの不具合でゲームを再起動することができません。その結果、あなたのゲームは止めることができません。

 このメッセージをあと10回表示させてください。」



 そのユーザは友人に話した。すると、その友人たちもゲームを終了させようとしたら、同じエラーが出てきた。そして、友人たちはじゃんけんをして負けた人が10回このメッセージを出そうと決めた。


 友人たちはじゃんけんをする。負けた一人がしぶしぶエラーを表示した。



 「申し訳ございません。ただいまあなたのシステムの不具合でゲームを再起動することができません。その結果、あなたのゲームは止めることができません。

 このメッセージをあと10回表示させてください。」


「申し訳ございません。ただいまあなたのシステムの不具合でゲームを再起動することができません。その結果、あなたのゲームは止めることができません。

 このメッセージをあと10回表示させてください。」


「申し訳ございません。ただいまあなたのシステムの不具合でゲームを再起動することができません。その結果、あなたのゲームは止めることができません。

 このメッセージをあと9回表示させてください。」


「申し訳ございません。ただいまあなたのシステムの不具合でゲームを再起動することができません。その結果、あなたのゲームは止めることができません。

 このメッセージをあと8回表示させてください。」


「申し訳ございません。ただいまあなたのシステムの不具合でゲームを再起動することができません。その結果、あなたのゲームは止めることができません。

 このメッセージをあと7回表示させてください。」


「申し訳ございません。ただいまあなたのシステムの不具合でゲームを再起動することができません。その結果、あなたのゲームは止めることができません。

 このメッセージをあと6回表示させてください。」


「申し訳ございません。ただいまあなたのシステムの不具合でゲームを再起動することができません。その結果、あなたのゲームは止めることができません。

 このメッセージをあと5回表示させてください。」


「申し訳ございません。ただいまあなたのシステムの不具合でゲームを再起動することができません。その結果、あなたのゲームは止めることができません。

 このメッセージをあと4回表示させてください。」


「申し訳ございません。ただいまあなたのシステムの不具合でゲームを再起動することができません。その結果、あなたのゲームは止めることができません。

 このメッセージをあと3回表示させてください。」


「申し訳ございません。ただいまあなたのシステムの不具合でゲームを再起動することができません。その結果、あなたのゲームは止めることができません。

 このメッセージをあと2回表示させてください。」


「申し訳ございません。ただいまあなたのシステムの不具合でゲームを再起動することができません。その結果、あなたのゲームは止めることができません。

 このメッセージをあと1回表示させてください。」



 そして最後に終了ボタンを押すと次のエラーが出てきた



「申し訳ございません。ただいまあなたのシステムの不具合でゲームを再起動することができません。その結果、あなたのゲームは止めることができません。

 このメッセージをあと0回表示させてください。」



 そして、エラー文が表示されると次のようなエラーが赤文字で出てきた。


“error 500, this code is overflow number; I command process from file /usr/local/brain_process/shutdown; please report to my professor”


 エラーの表示直後、負けた友人は骨が抜けたかのように倒れた。ゆすっても返事がなかった。その友人は悲鳴を上げた。道行くプレイヤーがその人たちを見る。悪ふざけした人たちは道行く人に懇願した。


「おい!お前!試しにシャットダウンしてみてくれ!」


 たじろいながら道行く人の一人がシャットダウンボタンを押す。次のエラーが発生した。


“error 500, this code is overflow number; I command process from file /usr/local/brain_process/shutdown; please report to my professor”


 そうすると、頼んだ相手も骨が抜けたかのように倒れた。周りの人が悲鳴を上げた。悪ふざけをした人の一人が人を押しのけて叫んだ。


「助けてくれ!助けてくれ!助けてくれ!助けてくれ!」


 そういうと、一人の男が暴走する人を止めた。


「おい、君。どうしたんだ。」

「おっさん!放してくれ!俺は帰りたいんだ!元の世界に!」

「何を言ってるんだ?君は?」

「あそこで。あそこで。あそこで。あそこで。あそこで。俺が殺したんだ!」


 その瞬間、後ろから大きな悲鳴が上がり始める。後ろから地獄のそこから湧き上がるような高音と低音の響きが波を持ってやってきた。その先を見ると、人々が目の前の現実から必死に逃げようとするかのように押し寄せていった。


 走る足音が恐怖を増幅させる。やかんの蒸気が逃げ道を探すかのように人が死体らしき物がおいている場所からなだれ込む。そこに男も女も子供も関係なかった。プレイヤーはアバターであるから、体を小さくできる。小さき者は大きな物に踏みつけられて、徐々に体力が減る。小さき者は地面を這い、小さき虫を見つける。


 小さき虫はせっせと前へ前と進む。小さき虫は群衆に無残に踏みつけられる。小さき者の体力をなくした。小さき者は骨が抜けたように力を失い、踏みつけた人はそれを顧みることもなかった。


 か弱き者、小さき者が見られず、人々は町の外へと向かう。外に出ると、ゲームの

象徴の塔が瓦解を始めていた。塔の中心から空に向かって黒いマグマと煙が立ち上る。煙はたちまち空を覆った。


 群衆は町の外に出る。外に出れば何かが分かるかもしれないと淡い期待を抱いたのだ。外に出ると、マグマの灰が木々を覆った。木々は灰をかぶり、かぶった灰は葉といっしょに地面に落ちていった。たちまちあたり一帯の地面は灰色に染まった。


 群衆は町の近くの森の手前で足を止める。枯れた森の奥から影が見えた。その足は小さい二本足の小さい人に見えた。その数は徐々に増える。


 奥からは高さが120センチもある狼が何匹も出てきた。5メートル程度手前までくると息遣いが聞こえてきそうだった。灰を踏んでいるから、足音は皆無だった。狼の方向から風が来た。一瞬で獣の匂いだと分かった。


 もう一度風が吹いた瞬間、狼は人々を襲った。


 群衆はまた町に逃げ始めた。先頭にいた者は喉元を噛まれる。噛まれた悲鳴は逃げ惑う人の悲鳴でかき消された。


 群衆は町の門を締めようとした。群衆が半分来たところで町の門を締め始めた。我先にと門になだれ込む。最後の一人は前の人を払いのけて入った。


 門を叩く音と叫び声が聞こえる。


「たのむ!入れてくれ!」

「たのむ!なんでもするから入れてくれ!」

「ここでゲームを終了させてくれ!悪い夢であってくれ!」


 狼が次々と逃げ遅れた人を襲う。悲鳴が聞こえる。その悲鳴は時間が経つにつれて徐々に聞こえなくなる。


 悲鳴が止んだ時に群衆はようやく気づく。この時彼らにへばりついた獣の匂いが罪悪感に変わった。


 騒動が起こって1日すると、町の広場から人が消えた。人々はゲーム内の家に引きこもった。灰と獣の世界を恐れたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る