第25話 賢者
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どうやら、ゴートンと出会ったときの……昔の夢を見ていたようだ。
柔らかな陽光が顔に当たり、ゆっくりと意識が覚醒していく。
小さく息を吐き出して、ラモーは静かに目を開いた。
視界に広がる見慣れない天井。ぼんやりとモヤが掛かったような思考で、今の状況を整理する。
途切れ途切れだった記憶のピースが、ゆっくりと一つの形を作っていくような感覚。
村に現れた魔物たちと、それを率いる”王”と呼ばれる個体。
スキルを発動した後は……あまり覚えていない。
そして、ラモーはハッと周囲を見渡す。
木製の小さな部屋。自身は柔らかな部屋着に身を包み、ベッドの上に横たわっている。
家具の類はほとんどなく、ベッドの傍に小さな箪笥が鎮座していた。
けがをした自分を、ゴートンがこの場所まで運んでくれたのだろうか?
起き上がり、ベッドから出ようとすると脇腹に鋭い痛みが走って顔をしかめる。
長年の経験から、どうやら骨が折れていそうだと推測。負傷した箇所に負担をかけないよう、気を使いながらそっとベッドから出て立ち上がる。
ドアを開けて部屋から出る。ふわりと何やら香ばしい良い香りが鼻をくすぐる。
香りにつられるようにして移動すると、キッチンにたどり着いた。
犬の頭部に人間の胴体をした小柄な獣人が、なみなみとスープの入った鍋を火にかけている。
犬の獣人は、ラモーの存在に気が付くと人懐っこい笑みを浮かべて近寄ってきた。
身長がラモーの半分ほどしかない小さな犬の獣人。彼は甲高い声で話し始めた。
「お目覚めですか!良かった!オイラはタローっていいます。そろそろお食事が用意できますのでお待ちください」
「あ、ありがとう……じゃなくて、ここにアタシを連れてきたのはゴートンだろ?彼はどこにいるんだい?」
ラモーの問いに、タローと名乗った獣人は、一瞬キョトンと首をかしげた後、何かを納得したように手をポンと打ち鳴らした。
「あぁ、なるほど。あのお方は今ゴートンと名乗っているのですね!」
ゴートンと名乗っている。
そうだ、彼は出会ったときにその名前を適当に決めたかのような発言をしていた。
しばらく彼と一緒に行動をしていたが、彼が何者かなんて一つも知らなかったことを、ラモーは思い知らされた。
そんなラモーの複雑な心境を知ってか知らずか、タローは陽気な声で続ける。
「ゴートン様は用事があってしばらく帰ってこれないとおっしゃっていました!その間の雑事はすべてこのタローにお任せください!」
「……用事って?」
「んー、詳しい事はわからないですが、”我が愛が安心して暮らせる世界にしなければ”とおっしゃっていましたね。まあ、心配ありませんよ!用事が何であれ、ゴートン様は無事で帰ってきますから」
「なぜ、そう言い切れる?」
ラモーの問いに、タローは何を当たり前のことを?とでも言いたげな表情で返答する。
「かのお方はこの世界でもっとも長く生きている獣人ですからね……数千年の時を無傷で生き延びている賢者に、百年も生きていないような赤子の我らが身を案じるなんてことはおこがましいのですよ」
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