第6話 バジリスク

 蛇の王バジリスク。

 かの存在の天敵となる存在は、この近隣には存在しない。

 食物連鎖の頂点。まさに王と呼ぶにふさわしき存在。

 バジリスクは、その雄々しき新緑の体をゆうゆうとくねらせて、本日の食料を探していた。

 昨日の昼に丸呑みした肉付きの良い山羊は、いの中ですっかり消化されている。

 蛇の王は腹ペコだ。

 チロチロと長い舌を出し、周囲の状況を確認する。

 そして見つけた。今回の獲物だ。

 先日の山羊よりさらに大きな獲物。数メートル先。山羊の香ばしい香りが鼻孔をくすぐる。

 バジリスクは目をランランと輝かせ、カパリとその大きな口を開くと、一気に獲物に飛びかかった。

 次の瞬間。地面から飛び出した紐状の物質によってバジリスクは拘束される。

 何が起こったのかわからない。

 混乱するバジリスクの前に現れたのは、山羊の頭と人の体を持つ大男。ゴートンだ。

「……やれやれ、こうも囮役がハマると逆に複雑な気分だな」

 その言葉に答えるように、背の高い木の枝で待機していたラモーが、拘束されたバジリスクの頭にめがけて、自身の手斧を叩き込む。

 硬い鱗や頭蓋骨ごと叩き割る、ラモーの凄まじい一撃。

 バジリスクの頭はパカリと割れ、中から大量の鮮血が吹き出した。

「スキルを使うまでもなかったな!ナイス作戦だゴートン。魔眼のこともあるし、真正面から戦ってたらかなり苦戦したと思う」

「いやいや、私は何もしていないよ。ただ哀れな子山羊のように、ここで小さく丸まっていただけさ」

「そんなこと言ったら、アタシだってただ動けない蛇の頭を叩き割っただけで大したことはしてない」

「いや……拘束したとはいえ、バジリスクを一撃で仕留めるのは十分大したことなんだけどね?」

 そんな雑談をしながら、ラモーは仕留めたバジリスクの牙を一本へし折って荷袋に入れる。

 討伐の証として、ギルドに提出しなくてはならないのだ。

「眼も一部のコレクターに高く売れるんだが、採取していくかい?」

 ゴートンの提案に、ラモーは首を横に降った。

「保管する入れものがねえ。街に戻るまでに腐っちまうよ」

「まあ、確かにね」

 別に、バジリスクの死体から採取した魔眼で、誰かを石にできるわけじゃない。

 それでも高値で欲しがるのだから、コレクターというものは奇妙な存在だ。

 ゴートンがそんなことを考えていると、突然ラモーがピタリと動きを止めた。

 真剣な表情で周囲を見回すと、突然隣にいたゴートンを突き飛ばす。

「何を!?」

 驚いたゴートン。

 次の瞬間には、彼が立っていた場所の地面に突き刺さる一本の槍。

 そして遅れてやってきた人影が、優雅にその槍を抜いて振り返った。

「おや、感の鋭いやつがいるね」

 ラモーは絶句する。

 蛇の顔に人間の女の体。衣服は来ておらず、そのたわわな胸があらわになっている。完全な人間の体というわけではなく、ところどころに新緑の見事な鱗が生えていた。

 その姿は、まるでゴートンと同じように見えたのだった。





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