ショートショート・昼寝をさせない者

アライブ

昼寝をさせない者

 喚くような声を聞いて、ジョンは目を覚ました。頭痛のするような、子供の喚き声である。横になったままデジタルの壁掛け時計を確認する。カーテンも雨戸も閉めて暗くした寝室のなかで目を凝らし、どうにか十四時ということがわかった。


「起きたはいいが、まだ真っ昼間じゃないか。俺はまだ寝ていなければならないというのに……。」


 ジョンはそう嘆いた。彼は、Tセキュリティという小さな警備会社に務める警備員である。二日に一度夕方頃に出勤し、会社と契約したオフィス内を、一晩中巡回して警備するのが彼の普段の仕事だ。勤務時間に対して薄給なのは少々問題だが―――休みも多く、満員電車にも巻き込まれない。侵入者などの厄介事が起こるのも稀など、その分楽な仕事である。怠け者のジョンは、自分にとってこれ以上良い仕事はないと考えている。しかし同時に、楽な分同業者の誰よりもきっちり仕事をこなしてやろうという意地も、彼の中にあった。おかげで彼はその仕事ぶlりが認められ、最近警備課長に就任したのだ。立派な役職を与えられ、ジョンは今までより一層仕事に励んでいた。

 そして、その仕事の質を上げるためには、昼間に仮眠を取っておくことが不可欠である。今晩も、ジョンはオフィスへ警備へ行く。先程までそれに備えて眠っていたのだが、そんなときに、家の外で子どもたちが騒ぎ始めたのだった。


「参ったな、これじゃあ眠れそうもない。すぐ終わるとも限らないし、止めてこなくては……。」


 ジョンは寝巻のまま、玄関へと出ていった。

 ドアを開けて外に出ると、目の前で子どもたちが言い争いをしていた。男の子が二人。住宅街一帯に響くような大声で、互いに激しい言葉を浴びせあっていた。今にも殴り合いに発展しそうである。今度は大人としての責任感のようなものが、「この喧嘩は止めなくてはまずいぞ」とジョンに伝えていた。ジョンは素早く動き、二人の間に体を割り込ませた。


「おい、お前たち一体何を争ってるんだ? 俺が話を聞いてやるから、少し落ち着け。」


 二人の顔を見比べながら、できるだけ厳かにジョンは言った。大人に介入されたことに驚いたのか、あるいは単純に冷静になれたのか、子どもたちはジョンの顔を見たまま静かになった。しかし表情からは、抑えきれない興奮がにじみ出ている。とはいえ、話ができるくらいには落ち着いたようだった。


「一体、何があったんだ?」


 改めてジョンがそう尋ねると、少し間をおいて、一人が口を開いた。


「こいつが、僕のパパをバカにしたんだ。」


 男の子がもう一人を指さしながらそう言うと、その子はそっぽを向いた。言い訳するつもりはない、といった様子だった。


「どういうふうに、バカにされたんだ?」

「えっと。僕のパパは、社長なんだ。Tセキュリティ社の社長。」

「え、それは本当か?」


 ジョンは目を見開いて驚いた。Tセキュリティ社といえば、ジョンの勤務先である。この子は社長の子だというのか。近くでよく顔を見ると、確かにどことなく以前見た社長と似ているような気がする。家のすぐそばで騒いでいた子が、自分の勤務する会社の社長の息子。ジョンはこんなこともあるのか……と半ば感心するのと同時に、不思議に思った。社長である父親をバカにするとは、どういうことなのだろうか。息子である彼ではなく、父親を見下して暴言を吐くことが、あるのだろうか。父親がバカにされることと、その父親が社長であることがうまく結びつかず、ジョンが考えを巡らせていると、先程指をさされた方の男の子が「しょうがねえだろ!」と叫んだ。


「バカにされて当然だ! だってそいつのパパ、会社の金をギャンブルに使い込んで、つい一時間前に自分の会社を倒産させちまったんだぜ! 恥ずかしくって社員にもまだ何も言えてねえんだと。そんな間抜け、笑いたくもなるさ!」


 話を聞き終わって、ジョンは大笑いした。二人が不思議そうに見てくるのも気にせず散々笑ったあと、これからこの子たちとキャッチボールでもしようとジョンは思った。なにせ、今日ジョンは昼寝をしなくていいのだから。

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ショートショート・昼寝をさせない者 アライブ @olivealive

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