第9話 願い続けた『願い』は叶わない。
何故かモヤモヤが出来ていたけれど、生活には特に影響はなかった。何を意味しているモヤモヤなのか全く思いつきもしなかった。だけれど、不思議と悪い感じではなかったのを覚えている。そんなことは隅に置いておいて、いじめの無い生活を楽しんだ。二年生までは皆が思う、「普通の生活」はオララオにとっては苦しいものだった。
しかし、三年生の時はその生活を幸せだとどこかで感じていた。そんな生活も一年しかない。もっと言えばコロナで三年生の始まりが遅かったし、終わるのも二年生までと比べたら三年生の一年は短い。そんな短い一年でこれまで楽しいと思えなかった学校生活を少しでも楽しんだ。その生活は確かに楽しかった。
それでも、モヤモヤが消えることはなく、何ならモヤモヤが少し膨らんでいるような気がした。これについて相談しようにも原因が分からないし、勘が相談しない方がいいと言っていた。
どんどんと日が経っていって、前期が終わる頃だったような。いつも通りKさんや他の友達と休み時間にくだらない話をしていた。いつもそれが楽しくて仕方なかった。放課後の部活が終わり家に帰って諸々済ませた後の空いた時間。自室で、高校入試の対策をしたり、本を読んでいたりしていた。その時、唐突に何かについて腑に落ちることがあった。ハッとして、考えたらあのモヤモヤがほぼ無くなっていた。
結局あのモヤモヤは何だったのか。
原因は、「初恋」だった。それもKさんに対する気持ち。それに気づく前までは、いじめから立ち直るきっかけをくれた恩人で、友人としてもかなり信用していた人と認識していたのだと思う。この僕がKさんを好きになった? いや、そんなまさか。だけど、それに妙に納得してしまう自分が居る。
初恋を自覚して驚きと嬉しさがある反面、「最悪だ」という気持ちが平行して存在していた。
入試がどんどんと近づいて忙しいのに、そして何より、Kさんには既に相手がいる節があった。嬉しいのに、最悪。こんな気持ちになる事なんてもうないだろう。書いている今でも思う。気付いた気持ちに嘘は付けないしどうしようか考え、隠すことにした。世間で言うチキンというやつだろう。好きという気持ちを裏腹に学校ではいつも通りの生活をした。それが出来ていたのかは分からないけれど。隠しながらの生活は苦ではなかったし、それでいいと思った。悲しいけれど、実らないことも分かっていた。だけど話している時はやっぱり楽しかった。この気持ちは一方的だったけど、それで良かった。
そのまま時間が過ぎていき、みんなの進路が決まり、中学校生活最後の大きな行事、卒業式の日になった。小学校の時は親曰く、泣いていたらしいけど、今回は泣かなかった。そうだったと思いたい。いじめがあった学校で泣くのはなんか違う気がした。式終了後は各々友達たちと記念撮影をしていた。当時はスマホが無かったから近くでそれらを眺めているだけ。一応オララオも何枚か一緒に写った。
解散までの間、Kさんをさり気なく探していたけれど、マンモス校なだけあって見つけることは出来なかった。この時、一つの後悔が生まれた。それ以降、Kさんを一度も見かけたことがない。
中学校に一つの後悔を置いてきた。
Kさんに「感謝」と「想い」を伝えることが出来なかった事。
それからずっと、「もし、どこかで会うことが出来ていたら、忘れていても良い、あの時の感謝と気持ちをこの口で伝えたい」と毎日願った。
しかし、三年経った今でもその後悔は解決してない。認めたくない、諦めたくないけど、この願いはもう叶わないこと。そしてもう会う事すら……。
これまで生きてきて、ここまで引きずった後悔は初めてかもしれない。それも特定の一人に対して。
会って話せないことは分かった。同時に願いが叶わないことも。
なら、せめてここで…!
本人に見られなくても良いっ!
覚えてなくても良いっ!
迷惑だって思ってもらって良いっ!
誰にも見られなくて良い……。
ただ、一言―
「あの時は、ありがとう。そして、好きだよ。」
そう伝えたかった。
【『いじめ』は『人』を、『人生』を破壊する。そして、願い続けた『願い』は叶わない。】
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