第2話 壊されていく日常
小学校を卒業し、市内の中学校に入学するオララオ。(以下「僕」とする)僕の小学校の時の学年の人数が九十人くらいはいただろうか。何せ十年も前の事なんだ。正確な数字なんて覚えていない。中学の時の学年人数は二百八十人くらいだったような記憶がある。この辺りでは大きな学校になるのだという。
この学校に入学して半年は平和だった。生活に慣れるまでの疲労はあったが。通っていた中学は二期制であり、前期後期と別れていた。
その後期くらいに事の発端となる出来事が起きた。それは授業の最中。教科は忘れたが、挙手発言のある授業だったことは覚えている。この授業で僕は挙手をして、先生に当てられ指示された箇所の発表をしようとした時だった。僕の生まれつきって言っても良い、「吃音」の症状が出たんだ。その時の周りの反応を見たときは羞恥とは違う、上手く言葉に出来ない感情になった。その周りの反応というのは。
クスクスと嘲笑うかのようなものだった。
励ましてくれる人なんて居なかった。先生も緊張しなくても良い、とは言うけど。吃音はそんなものじゃない。緊張云々は関係ない。
仕方ないだろ。幼い頃からある症状なのだから。症状が出る前兆なんて無い。突然と来るものなんだ。僕の意志ではどうすることもできない。出来るのは出たときに瞬時に似た詰まらなそうな単語を考えて言う事しか出来ない。
当時の年齢くらいの子が「吃音(別名 どもり)」の言葉を知っていると思うか? 知っているという方が少数だと思う。今までの生活の中で吃音持ちの人に会わなければ知ることのない言葉だから。そもそも、吃音を持つ人は極少数なのだ。
笑われたのが一回だけならまだ流せたと思う。でも別日に同じことが起きた。別日も別日も。これには流石に我慢できなかった。だけどここで怒りを表したところで事態は悪化するだけ。
「わー、なんか怒ってるー(笑)」
余計にからかわれて終わるだけ。
どうすることも出来ずに心の内に溜め込んでいった。
この時からだったか、また笑われるのが怖くて授業で挙手を全くしなくなったのは。結果として挙手のある授業の成績が誤差程度に下がった。
そんな事で「これがいじめ?」って思う人が居るだろう。
まだ本題には入っていないよ。ここまでが事の始まりだから。
前述の時と同じ頃、後期用に席替えが行われた。僕のグループにはクラス委員(女子)が居た。顔は良かったがいかにも何かありそうな見た目のクラス委員なのは朧気に覚えている。数日が過ぎて、僕がグループ班長の机に毎朝提出する物を置いた時に不意に触れてしまった。そのクラス委員の提出する物を。その途端に僕に向かって「汚いから触るな」みたいなことを言ったような気がする。当時何を言われたのかははっきりと覚えていない。その日からそいつの僕に対する扱いは劇的に変わった。汚い者を見るかのような感じに。僕の耳に聞こえる距離でそいつは他の女子生徒と陰口を言い始めた。その時も、今も思うけれど、クラスを代表するクラス委員である人が誰かをいじめているのは如何なものだろうか。
吃音を笑われた、クラス委員に汚い者扱いされた。これらの事が僕の心を抉った。恐怖を覚えてしまった。そんな時、クラスの学活で全員発表をしなければいけない時間があった。
そう言われた時は「え?」と思った。同時に心臓辺りがドクンっとなった。また笑われると思って怖くなった。怖くて手を挙げられなくて、気付いた時には最後の一人になっていた。『早く何か言わなきゃ』という焦りと、『吃音が出たときに笑われるのが怖い』の二つの気持ちが心の中で争っていたら、その時の限界が来たんだと思う。涙が流れた。情けないなとは思った。
念の為、いじめの定義を書こう。
「いじめ」とは、「当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの。」問題行動等調査(文部科学省)より
となっている。
既にこの時の僕はこの状態だった。だから他人が「それはいじめじゃない」と言っても意味が無い。定義にもある通り、精神的苦痛を感じていればいじめ判定なのだ。後に先生にこっそり相談し、先生は対処すると言ってくれたが、何一つ変わらなかった。それが僕は悲しかった。学校のいじめ対策なんて当てに出来ない事をこの時知った。
この事案が何一つ解決することなく、中学一年は終わった。
当時の記憶は薄くなってしまったけれど、今でも恐怖は残っている。
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