04 焼畑農業

この会社は問題が多い。



会社がパートをやとっているのは、

専務せんむとの不倫ふりん奨励すいしょうするためではない。



当然、人手を必要とするためだが、

商品の梱包こんぽう以外にも発送伝票の作成を

手書きで行うのは時間がかかり、

書きそんじや伝達でんたつミスも発生しやすい。



そんな理由で、管理者の阿畑あはたかいする

確認作業が工程こうていふくまれている。



しかしだれかいしたところでミスはしょうじる。

ミスのない人間なんて存在しない。

手書きにこだわる必要もない。



もう古い会社なので機器の導入どうにゅうおくれ、

おざなりにした結果といえる。



そんな阿畑あはたが問題を起こした。



と、決めつけるのは良くないが、

阿畑あはたきらったパートたちが

一斉いっせいめてしまった。



発端ほったんは在庫の不一致ふいっちであった。



それをパートのせいと決めつけ、

阿畑あはたは自分の責任を無視した。



よくある在庫トラブルだが度々たびたび社員や経理けいりが、

愚痴ぐち陰口かげぐちをパートから聞かされ続けた。



まずこれが根本的に間違っている。

愚痴ぐち陰口かげぐち解消かいしょうする問題など存在しない。



在庫については俺も確認しているが、

注意力にける阿畑あはたかいしてはいないので、

原因は別にあると推測すいそくした。



もちろん、パートが辞めたくなる要因よういん

ほかにもなにかしらあったのだろう。



人間関係のいざこざ以外なら、

他所よそのほうが給料がいいとか?

それならば、遅かれ早かれである。



社員の阿畑あはたと、大勢おおぜいのパート、

どちらを擁立ようりつするかといえば、

会社は決まって社員を優先する。



該当がいとう社員にがなければの前提ぜんてい



しかし残ってくれたパートの

作業の負担ふたんも早めに軽減けいげん解消かいしょう

しなければいけない。



丸井くんに穴埋あなうめしてもらい、

俺がひとりで商品の集荷しゅうかまわることになった。



阿畑あはたの仕事量が増える点については、

自業自得じごうじとくと思って貰おう。



パートの募集から採用までは

時間がかかるので、俺はこれを

いままでやっていた手書きの発送伝票をはいし、

専用機器の導入を新たにゴリ押した。



社長のせがれという外から来た人間が、

権限けんげんで現場を混乱こんらんさせるのはよくある話だ。



発送伝票を専用機器で印字いんじさせる作業は、

覚えてしまえばむずかしくはない。



専門知識や、高額なリース料が必要でもない。

こんな作業はだれでもできる。



パートで伝票を作成していた工程が、

受注担当が伝票を作成するようになったので、

まぁ、しぶい顔をされたが、専務に相談そうだんして

給与を少し上乗せするようにした。



ありがとう、専務。



そんな業務改善をしたところで

俺の給料が上がるわけもなく、

仕事は増えるばかりだった。



迷惑めいわくついでにもうひとつ。

専務にあるお願いをしたら、

彼まで渋い顔をした。



「僕もこんな卑劣ひれつな手段、

 使いたくありませんが…。」



俺はスマホの画面を専務に見せた。

専務に書いてもらった例の誓約書せいやくしょの写真。



スマホをひったくって画面に食い入るが、

マムシにまれた犬のような顔をして、

とてもこころよく引き受けてくれた。



ありがとう、専務。



いくら相手を信用したところで、

他人は自分の思い通りには動かない。



それならば信用の有無に関係なく、

利害関係で動くように仕向けるしかない。



こうやって出しゃばるので、俺の仕事は

雪だるま式に増加と変化を繰り返す。



増やした仕事で関係各所を連携れんけいさせるべく、

さらにあちこち回るようになった。



雑用に変わりはない。



 ◆ 05 重力の井戸 につづく

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