第13話 2人ならどっちも同時に守ってくれるね。
雲平は馬車に乗って2日が過ぎた。
1日ごとに大きめの街で馬車を乗り継ぎ、馬を交換する時に少しだけ休む。そんな流れでレーゼを目指していた。
セムラが使う馬車だからか、外見は質素だが内装はしっかりしていて、長時間乗っても苦にならない。夜は寝ていても身体が痛くならない、そんな馬車だった。
「クモヒラ!元気だナ!」
「うん。上等な馬車で助かってるよ」
「ジヤーの服も似合ってるゾ」
「ありがとう。元々の服も鞄に入れてるし、鞄まで貰えて感謝しかないや」
雲平に話しかけてきたのは、赤い軽量の革鎧と形は同じだが同じだがオレンジ色の革鎧を身に着けているバット姉妹。
この2人がブラウニーが推薦してきた騎士で、雲平は「女の子?」と言ってしまうが、ブラウニーに言わせればまだ若いが実力は折り紙付きだと保証される。
それでも渋い顔の雲平にブラウニーが、「地球人、何が不満だ」と聞くと、雲平は「女の子ですよ?俺はシェルガイに詳しくないけど、女の子は悪漢とかに襲われたり、人攫いに連れていかれたりする危険も孕みます。なんかこうガチムチで筋骨隆々の、見るからに危険そうで、近付いただけで人を殺しそうな男の人とか居ないんですか?」と言い、ブラウニーは騎士団から雲平に屈強な男を2人選ばせて、試合をさせたがバット姉妹は男を秒殺してしまう。
男を秒殺したバット姉妹は「にひひひひ、アンタ優しいネ!」「私達なら平気だよォ〜」と笑うと、ブラウニーの前に出て「団長、姫様とこの地球人を守って、レーゼまで行けば良いんだよね?」と聞く。ブラウニーは「ああ、よろしく頼む」と言って頷いた。
バット姉妹は雲平の前まできて、2人して「にひひひひ」と笑うと左の赤い革鎧姿にポニーテールをした少女は、「私の名前はアチャンメな。お前の名前は?」と言い、右のオレンジ色の革鎧姿にショートヘアの少女が、「私はキャメラルな」と言った。
雲平は「安倍川雲平、雲平と呼んでください。よろしくお願いします」と挨拶すると、アチャンメは嬉しそうに「クモヒラ!覚えた!」と飛び跳ねて、キャメラルは「守るからな!」と言って手を振ってくる。
これにはブラウニーが「アチャンメとキャメラルが懐くとは…」と驚きを口にして、シェイクは「本当だ。君達、ジヤーの代表としてセムラ姫と雲平を守るんだよ」と声をかける。
雲平はブラウニーとシェイクのコメントに首を傾げる事になったが、バット姉妹のガラの悪さは馬車に乗り込む時に発揮される。
「バット姉妹、お散歩か?良かったじゃないか、お利口にな」と軽口を叩いた兵士は、即座に首根っこを掴まれて「死ぬか?ぁあぁん?」と凄まれ、「クモヒラの前でその名前で呼ぶなカス」と言いながらこれでもかと蹴られている。
兵士が泣きながら謝ると途端に笑顔に戻って、「クモヒラ!ビックリしたカ?脅かしてごめんナ!」、「コイツらバカだから、たまに躾けてやらネーとダメなんだヨ!」と言ってニコニコと甘えてくる。
呆気に取られて居ると、ブラウニーから「可能な限り2人を頼む」と言われ、雲平は「厄介払い?」と思ったが、素直に頷いて「はぁ」と返事をした。
馬車に乗って景色が変わり映えしなくなったころ、名前のどこにもバットがない事を疑問に思った雲平は、「バット姉妹って何?」と聞く。
「クモヒラにその名前で呼ばれたくないヨォ」とアチャンメが言い、キャメラルは、「あのゴミカス、クモヒラの前でクソうぜえ。帰ったらブチ殺してやる」と怒る。
それでも「名前の何処にもバットが無いからさ、本当はアチャバットとかキャメバットなの?」と雲平が聞くと、笑ったバット姉妹は「変な名前つけんなヨー」、「クモヒラ面白い!」と言う。
アチャンメが「私達は父親がジヤー人で、母親がレーゼ人、どっち付かずだから、蝙蝠なんて呼ばれてんだよ」と言うと、キャメラルが「クモヒラは知らないか?蝙蝠って、獣でも鳥でもあるから、どっち付かずなんだってサー」と続ける。
雲平は蝙蝠の話は知っているが、それをバット姉妹が知っていた事に驚き、すぐに「ああ、地球人が話したのか」と納得をした。
つまらなそうに話す2人に、雲平は「凄いね。じゃあ2人は、セムラさんもシェイクさんも守ってくれるんだね。2人が同時に襲われてたら、カヌレさんならセムラさんを優先するし、ブラウニーさんはシェイクさんだけど、2人ならどっちも同時に守ってくれるね」と言う。
黙ってしまった2人は目を丸くしてお互いを見て、雲平とセムラを見た後で文字通りニタァと笑うと、「そうだよ!」「私達は強いからナ!」と言って、「任せとけ!」「クモヒラはいい奴だな!」と言ってからは、「お兄ちゃんが欲しかったんだ」「クモヒラはお兄ちゃんナ!」と言って横に座って、「お兄ちゃん!」「お兄ちゃ〜ん」と言って懐いてしまう。
だがしっかりしているのは、「馬車は夜通しだから、クモヒラは寝てなネ」「私達も交代で眠るから安心しろ。守ってやるからナ」と言って、任務からは決して手を抜かない事だった。
馬車は夜通し走るので、次の街で必ず領主の家に立ち寄り馬を変える。
早馬の伝令兵は、先に国境側の領主の元まで向かい、馬の手配を済ます。
馬車は後1日の所まで移動をした所で降りて、雲平とセムラ、アチャンメとキャメラルは徒歩でレーゼの城を目指す。
「カヌレさん、今日の出発はどのくらいですか?」
「雲平殿?」
「セムラさんも、突然の俺みたいな男との旅で疲れているでしょうから、少しこの辺りをアチャンメ達と散策します。アチャンメ、散策でも護衛頼める?」
アチャンメは嬉しそうに「任せて!クモヒラを見る奴らは全部ブッ飛ばすヨ!」と言うと、キャメラルも「じゃあ私はね、全部蹴り飛ばす!」と言う。正直危険だがこの際気にしない。
セムラが心配そうに、「雲平さん、私は平気ですよ?」と言うが、「いえ、今の間に疲れを癒してください」と言うと、カヌレが出発は2時間後だと言うので、雲平は散策に出た。
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