第6話 あれ?変だ…?

居間に戻ると、あんこが「話どうなった?」と聞いてくる。


雲平が黒電話の方を見て、「うん。今から保護の人が来るってさ」と言うと、あんこは「良かったねセムラちゃん」と言う。

セムラは深々と「はい。ありがとうございます」とお辞儀をした。


「でも、このまま泊まれたら良かったのにね。お婆ちゃんの家も大きいし、雲平の家も大きいしさ」

「いえ、そんな申し訳ないです。雲平さんには命まで助けて貰ったのに、泊めてもらうだなんて、それに保護をして貰って、早くシェルガイに帰らねばなりません」


ここで聞いていたこのこが、「命?雲ちゃんが何かしたのかい?」と疑問を口にして、セムラが「はい。運良くアナザーゲートが崖に生まれてくれて、滑落した私は助かりました。ですがその時に、シェルガイで私を襲ったゴブリンまで転移していたのです。ですが、雲平さんがそれを退治してくれました」と説明をする。


ゴブリンと言われてもイメージの付かないかのことあんこ。

この話にあんこがスマホを取り出すと、ゴブリンの姿を検索して「うわぁ、雲平ってば頑張ったね」と言い、かのこもそれを見て、「怪我はないね?それにしても雲ちゃんは、女の子を守れて偉いよ」と言った。


「うん。セムラさんを助けられて良かったよ。電話の人もよくゴブリンを倒せ………」


雲平が会話中に固まる。

あんこが雲平の顔を覗き込んで「雲平?」と聞くと、雲平はあんこを見ずに「あれ?変だ…?」と言った。

真剣な表情にセムラが「雲平さん?」と声をかける。


「セムラさんは、ゴブリンの話をさっきの人に話した?俺は横にいたよね?ゴブリンの事なんて話さなかったよね?」

「はい。私は名乗り上げて、たまたま知っていたバニエ卿だったので、挨拶をしただけです」


いよいよ気になったあんこが「雲平?」と聞くと、雲平は「俺…ゴブリンの話を…、セムラさんもしてないのに、電話の人は「よくゴブリンを倒せるとは」って言ったんだ」と言った。


ここで不穏な空気が流れる。

セムラは気付かない感じだったが、あんこは電話の向こうにいるバニエ卿が怪しいと気付き、「ねえ、それって保護されたらヤバいんじゃない?」と意見をする。


かのこも話の不穏さを理解して説得をするが、セムラだけはシェルガイの為に帰らねばならないと言って聞かない。


夕飯時、外の家からは煮物だろうか、醤油の匂いがしてくる中、警官と共に1人のシェルガイ人が現れた。


若く見えるが30くらいの男だろうか。

髪色は濃い灰色で姿勢がいい。


「おお…セムラ様!私はバニエ様が配下、グラニューと申します」

「お世話になります」


セムラは雲平達を見て「お世話になりました。この恩義に報いる事が出来ずに申し訳ありません。今日の出会いは、生涯の宝として忘れません」と挨拶をすると、かのこが「雲ちゃん、お写真を撮りましょう」と誘い、雲平はスマホを警官に渡して4人で並んだ写真を撮る。


写真には赤いジャージ姿のセムラが居て、物凄い違和感を放っていた。


かのこが「雲ちゃん、このお写真をセムラちゃんに届けてあげなさい」と言い、グラニューが「警視庁まで届けていただければ…」と説明をする。


今この段階でも、あんこやかのこに雲平は、セムラを行かせないで住む方法を模索していたが、そもそもセムラは帰りたくて仕方ない。


時間を稼ぎきれず、話がまとまった所でセムラが、「グラニューさん、私はいつシェルガイに?レーゼにはいつ?」と聞くと、「バニエ様のお話しでは10日ほどお時間を頂くことになるかと」と返す。


表情を変えたセムラが「何故ですか!?それでは間に合いません!」と声を荒げると、グラニューは困った表情で「そう申されても、セムラ様の通られたゲートの影響で、今はこちらからの帰還用のゲートは不安定になっていて、どちらに出現するかわかりません」と言った。


ここで雲平が「じゃあ10日後に鬼怒川まで?」と質問をすると、グラニューは「いえ、都内にもゲート施設はあります。何を?」と聞き返してくる。


「うちのばあちゃんやこのあんこも、もっとセムラさんと居たいって言ってたから、ウチで預かるのはダメですか?」

「…私の権限では…」


ここであんこが、「そうだよ!セムラちゃんもここか雲平の家でお世話になりなよ!」と言うと、かのこも「そうですよ。ウチになさいな」と続く。


セムラが困惑するのをいい事に、雲平がグラニューに「確認、してもらえます?」と捲し立てて、グラニューはバニエに確認を取る。



その結果、セムラの滞在が認められ、「ただ所在の確認が必要になりますので、必ず番号通知をして私の元にお電話をお願いします」と言われるだけに落ち着いた。


セムラだけは不満げだったが、「恩返しの一環です。ばあちゃんを喜ばせると思ってください」と雲平に言われて、セムラは「わかりました」「グラニュー様、バニエ卿にお話をしておいてください。10日後の迎えをよろしくお願いします」と言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る