第18話 金曜日スタート

 金曜日になった。なってしまった。

 圭介を取り戻すことができる期限は日曜までだ。

 今夜を含めて、あと3回しかチャンスがない。

「10冊も絵本とか借りてさ、ヒットゼロってどういうことよ……1冊くらいさ、なんか脈ありなのがあったっていいじゃん……ほんっとヘコむわぁ……」

 誰もいないリビングのテーブルに、私はだらりと突っ伏す。

 お母さんはパート、中学三年と一年の弟はフリーマーケットで出店、妹は友達と遊びに出かけている。

 お父さんはゴールデンウィーク中、ここぞとばかりに夜型生活しているから、まだ布団の中だ。

 昨夜、虫が主人公の絵本に食いついたのは圭介じゃなくてあいつだったわけで、なにやらオカルトな話を聞いてしまった。

 あいつが言っていた蠱毒という言葉が気になって、昨日の夜、家に帰ってきてからスマホで検索してみた。

 その結果は、ほぼあいつの言っていた通りだった。

『命がけで戦い、斃したくもない仲間を斃し、生き延びても命を奪われる……こちらの知らない自分勝手な欲の為にな』

「あの口調、間違いなく怒ってたよな……なんか、まともにあいつの話を聞いてると感情持っていかれそうになるよ……自分勝手な人間に巻き込まれてさぞ迷惑……っと、ヤメヤメ、パンを食べよう」

 私は気を取り直して朝食のトーストを齧り、牛乳でそれを喉の奥に流し込んだ。

「そんなことより、圭介だよ……正解はなんだろう? あー、なんで私、思い出せないのかなあ」

 私はぼんやりと宙を眺めながら、ため息を吐いた。

 私と圭介が保育園児だったのは、約10年前のことだ。

 10年。たった10年前のことが、こうまで思い出せないとは。

 私はメモ用紙を取り出して、そこに書かれている文字を見た。

 キャラクターグッズ、おもちゃの部分に“明日のフリマ”と書いてある。昨日の自分が書いたものだ。

「絵本はバツ……と……あーあ、今日外したらまたフリダシに戻っちゃうよ……」

 今日のフリーマーケットで、当時遊んでいたんじゃないかな……っていうおもちゃを探してみる。

 でも、それがまた違っていたらどうしよう。

「もう、不審がられてもいいから、圭介のお母さんに話を聞いてみようかな」

 脳裏に、先日スーパーで会った時の圭介のお母さんの背が浮かぶ。

『あなた達には、わからないわよ……』

 あの重い一言。

 それを思い出すだけで、胸がぎゅっと締めつけられる。

 私は手にしていた食べかけのトーストを皿に置いた。

 私は、諦めたくないんだよ。

 ちゃんと圭介の話を聞いて、圭介に謝って……その後のことは、その時に抱えればいい。

 例え圭介のお母さんに恨まれることになったとしても、このまま圭介とさよならなんて絶対に嫌だ。

 私は保存しておいた、10年前に流行ったおもちゃの画像を見つめた。

「まあ、これが今日のフリマで売ってるかどうかが問題だけどな……まあ、とりあえず行ってみるか」

 見上げたリビングの壁掛け時計の針は、ちょうど10時を示している。

 それは、フリーマーケットが始まる時間だった。

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