頭に咲いた白い花は幸せの象徴か
鹿嶋 雲丹
第1話 圭介
圭介の頭に白い花が咲いたのは、先週の月曜日のことだった。
「おはよー、
圭介は教室に入ってくるなり、爽やかな笑顔を浮かべて挨拶してきた。
朝のホームルームが始まるまで、まだ一時間以上ある。別段部活動の練習があるわけではない私と圭介は、教室で二人きりだった。
「おはよう……」
なんで、席が近いんだ。家も同じ団地だし。
「今日はこの本持ってきたんだ! 海外の作家さんの小説なんだけどね……」
圭介はにこやかに私に話しかける。リュックから取り出した一冊の単行本をめくりながら。
そんな本なんか、正直どうでもいい。
この数年、存在感を消していたあんたがなんでそんな爽やか高校生になったのか、私はその謎が知りたいんだよ。
香川圭介は、同じ団地に住む幼なじみだ。通っていた保育園、小学校、中学校、こともあろうか高校まで一緒だ。
だから、圭介が学校に来られない時期があったのも知ってるし、来たとしてもずっと存在感を消したまま過ごしているのも知っているのだ。
換気のために開けた窓から、4月の生暖かい風が吹き込んでくる。その風に、柔らかそうな白い花びらが揺れた。圭介の頭の上で。
圭介が爽やか高校生になったのは、あの白い花を咲かせてから、つまり先週の月曜日からなのだ。
「なんなんだよ、あの花……」
見た目は、ちんまりしていて可愛らしい。色も白くて清潔感がある。
私は離れた席から、本の世界に没入している圭介の頭頂部を眺めた。
問題は、その花が他人には見えていないという点だ。
初めて見た時、頭頂部に花を咲かせた圭介があまりに滑稽だったので、笑い転げて周りの子や先生に伝えた。
ところが、皆が皆『なにがおかしいんだ?』といった視線を投げてよこした。
「なんで私にだけ見えてるんだよ、ほんとに意味わかんねぇ……」
私はぶつぶつ言いながら、机の上に並べた宿題と格闘し始めたのだった。
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