第10話 甘過ぎてあとひとつまみ塩の足りない女

「愛加・・愛してる。好き。大好き。すっごく好き。この人が私の彼女。愛しのダーリン。私のお嫁さん ♡ねぇ、結婚してくれますか?返事して?」


 この呪文を唱えているのは華恋という、世界一甘い女。どのくらい甘いかというと、パンケーキの材料の小麦粉と砂糖の量を間違えて反対にしたくらい甘い。つまりとても甘いんだけどちょっとなにか間違えている子だ。


 昨日は二人共がお休みで、映画を観たり外食をしたりして楽しんだ。そして、夜の方もたくさん楽しんだ。余韻に浸り、早朝から疲れ切って寝ている愛加の横で、愛の呪文をささやく華恋。


「うーん。。う、うーん。。華恋、、だめ。それは投げてはいけない。。投げるならせめて、、し、お、塩大福にっ・・・あああああっ!!!」


 夢にうなされて飛び起きた愛加。最近はなぜかこういうことが良くある。(呪文のせいだよ)


「ハァ、ハァ、ゆ、夢か。。。」

「まなちゃん、、またうなされてたよ?大丈夫??」


 慈愛に満ちた聖母、華恋は、愛加を優しく抱きしめて、背中をぽんぽんっと叩く。(あなたのせいだよ)


「華恋が足りないから変な夢を見るんだね。ごめんね?もっと私のこと、好きにして良いんだからね?私まだ開いてないドアあるよ?」(夜の話?)


「あ、うん。ありがとう。でも十分足りてる。。ドア?」


「うそ?私なんて愛加と一瞬でも離れたくなくて今から泣きそうなのに、、。」(1時間後に出勤)


「え、そんなこと言わないで?離れがたくなるよ。。」(毒されている)


「うん。大丈夫。私今、愛加を連れていける職場を探しているの。」(キッズルーム完備の会社に一度問い合わせしたら電話を切られた)


(うーん。することが突拍子もなくて、一々甘いんだよなぁ。まぁいいけど。)

 愛加は冷や汗を拭うために、ベッドから起き上がった。


「はぁ、、この人が、、私の彼女。。好き。立ってるだけで綺麗。エッフェル塔なんて目じゃないわ・・・。♡」


 立っただけで全肯定される愛加。

 斜めでも立ち続けているエッフェル塔と、冷や汗をかきながら立っているだけの愛加が比較対象の華恋。スケールが甘い。


「あ、ありがと。ええと。華恋も素敵で綺麗だよ。朝ご飯食べよっか?」

「うん。私が準備するから愛加は私の準備をして?」


 私の準備とは、単純に愛加成分の取り入れである。ハグをしてキスをして、愛加の甘い言葉を吸収する儀式である。


「わかった。華恋、、すっごくかわいいね。大好きだよ?華恋ってちっちゃくてかわいい。妖精さんみたいだね。昨日もかわいかった。華恋が気持ちよすぎて泣いちゃうからゾクゾクしてやめられなくなるんだよ?悪い子だね?」


 この呪文によって、華恋の全関節は一度崩して立て直される。


「あっ!ダメ、無理、そんなこと言わないでっ!」(おかわり!)


 儀式10分後。


 華恋は冷蔵庫をあけてちゃきちゃきと朝ご飯を用意した。

 冷蔵庫には華恋が用意したお惣菜のタッパーがぎっしりと詰め込まれている。


 かぼちゃの煮付け×3、肉じゃが×3、さつまいもの甘露煮×3、、、いもばかりなのは特に意味がない。


 それらを少しずつと、目玉焼きを焼くだけで豪華な朝ご飯を頂ける愛加。


「いつもありがとうね。華恋はマメだよね。」

「ウフフ、だって、愛加の体は私が作りたいから。お弁当も作ったよ?♡」

「え、あ、ありがとう。でも華恋、、桜でんぶの使い方がちょっと、、」

「あ、前は桜でんぶの上にハートのご飯を載せたけど、今日はちゃんと逆にしたよ♡」

「ならよかった。。あれ、すっごい甘過ぎて、、。」

「ピンクが多い方が愛加に似合うと思ったの♡」

「そっかぁ。うれしいな。」



「本当に。こんなに献身的で優しくて、そして激甘な彼女がいるなんて、不満なんて言っちゃいけないって思うよ。ありがとう、大好きだよ♡」



 後何か少し、調整されさえすれば、華恋は完璧な恋人だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る