第2話 高校生活と運命の人
「2組…2組…おっここか」
教室の扉の向こうからざわざわした声が聞こえてくる。今日は高校の入学式を終えて初めての登校。
謎の緊張感が俺を襲う。登校している時から気になってはいた。
〈俺の運命の人は誰なんだ!〉と。
学校方面にのびていると思ったがまさか同じクラスとは。
めっちゃかわいい女子だったりして…って今の俺めっちゃキモい!
俺は自分の頬を引き締めて、教室のドアを勢いよく開けた。
「お、おお、おはようございまァす!!」
やばい。完全に失敗した。
緊張しすぎて声が裏返ってしまった。
あれほど騒がしかった教室が一気に静まり返る。クラスメイトの視線が痛い。最悪だ…
俺はため息をつきながら自分の席につこうとした。その時だった。
「初手からつまづいたなぁ。あ、俺、青峰 鳴海(あおみね なるみ)っていうんだけど、お前は?」
後ろから肩を組んできた。
見るからに〈一軍〉みたいなやつ。俺には縁がない人間だ。
「えと…佐倉…光…です。」
ああ、今の俺すげー陰キャみてぇ。これからの学校生活こいつの引き立て役かパシリにされるのかなぁ…もう泣きそう…
「ヒカル!?めっちゃカッケー名前じゃん!俺、近所のオバサンから「なるみちゃん」って言われてるんだけど、なんか…そういうの嫌なんだよね。俺男なのにさー「ちゃん」の方が呼びやすいんだろうけどねーだから光みたいなかっこいい名前、正直ちょー羨ましい!とりま、これからよろしくな!もちろんタメ語で!」
この陽キャ男…鳴海の太陽のような笑顔をみると、不思議とずっと心の中にあったモヤモヤが一気に弾け飛んだ気がした。
嫌なこともあるけど、なんとかやっていけそうだ。
「おう。よろしくな!鳴海!」
俺も鳴海に負けないように渾身の笑顔で応える。
高校生活初めての友達ができた…!と、待て!友達ができた喜びに浸っている暇はないんだった!今日最大の試練はなんだ!そう!俺の運命の人探し!
今もしっかりと結びついている赤い糸の先を目で辿る。
すると色の白い手の持ち主にたどり着いた。
すごく綺麗な手だなぁ…んで、どんな人なんだ?
俺は視線を上へずらして〈その人〉の顔を見て絶句した。
「お、男!?」
黒髪の綺麗に整ったマッシュ。
前髪は少し目にかかるくらい長く、顔があまり認識できない。
それに、クラスのみんなと違い誰とも関わらず自分の席でただ1人本を読んでいた。
うーむ…運命の赤い糸は本物…のはず。
でも制服もズボンだし、見た目だって男子そのものだ。
俺の運命の人が男子だなんて…
「嘘だろ…」
ため息まじりにつぶやいた。誰にも聞かれないように。
「さっきから何ですか?君。」
俺の運命の人(仮)に話しかけられた。
第一印象は失敗したらしい。
一応男でも運命の相手に嫌われててしまった…
「ずっと人の顔じろじろ見て、挙げ句の果てにため息ついて独り言?人間としてどうなんですか?」
う…確かに側からみたら失礼だったかもしれない。
人間としてここは素直に謝るのが正解だろう。
「それは悪かった。そ、そういえば俺とお前席隣じゃなかったか?
仲良くしよう。俺、佐倉光。よろしくな。」
よし。言えた。これで好感度アップ…かもしれない。
「お前じゃなくて、黒瀬凪(くろせ なぎ)です。」
呆れたようにそいつ…いや、黒瀬凪が言う。だが!俺はめげずに寄り添うことが重要だと思う。
えーと、言えばいいかわかんねえ…本日はお日柄も良く…って陰キャかよ!
ぐるぐる思考を巡らしている間も気まずい時間が過ぎていく。
もうとりあえず!ヤケクソだっ!
「おう!わかった!仲良くしような、凪!」
「気安く名前で呼ばないでくれるかな。」
相手の心を抉る一撃…だがこのくらいで俺はめげないっ!
「やっぱり…ダメか?俺は凪と仲良くしたいと思ってるだけなんだ…」
これ、この前見た学園ドラマの
主人公がツンデレなヒロインに放ったセリフ!さぁ、どうでる!凪!
「…仕方ないですね。特別ですよ…」
よしっ怯んだ!
凪が視線を逸らし、顔が全く見えないくらいの状態になる。
呆れられたか…ま、まぁこれから信頼関係を築いていけばいい。席もたまたま隣だしっ!
「ありがとう!凪!」
「別に…」
凪はまた読んでいた小説に目線を戻した。
いや、まて…運命の相手が男子ということはも、もしかして…び、びびびBLなるもの!?
嫌だっ!そんなの絶対に嫌だっ!
あぁぁぁ…なんで俺の高校生活こんな荒れてるんだぁ?
落ち込む俺を慰めるのはただ窓から入ってきた桜の匂いがする空気だけだった。
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