第39話「お姉様と実家・前編」


「と言う訳で詩音、来週末は実家に帰るから時間を空けておいて頂戴」


「私もついていっていいんですか?」


「当然よ、私の妹であり婚約者なのだから」


こうして詩音はレオナの実家帰りについていく事になった。

レオナが育った家と言う点で興味がそそられた。

そして時は経ち・・・


―週末・馬車の中


「着いたわよ、シオン」


「へぇ~ここがお姉様のご実家ですか」


この世界有数の貴族の出であるレオナの家はまさに宮殿の様なゴージャスな建物だった。

お金持ちの家など転生前に腐る程見て来た詩音は驚く事は無かったが、この規模の物を見るのは稀であった。

そして家の巨大な門が開かれ中に入ると、沢山のメイドや執事がお出迎えしてくれた。

そして建物の中に入ると絢爛豪華な家具や装飾がそこかしこにある。

そして見覚えのある中年紳士が目に入った。

レオナの父である。


「やあお帰りレオナ。そしてシオンさん、だったかな?アルバートと申します」


「お父様、そんな所で待っていなくてもこちらから出向きましたのに」


「あの時は碌に挨拶もせず失礼しましたアルバート様。天道詩音と申します」


「天道・・・ご両親と名前が違う様だが・・・まあ詮索はよそう。ゆっくりとしていきたまえ」


「ご配慮ありがとうございます」


詩音が一礼すると今度は紫のドレスを身に纏った肩まで伸びた茶髪の女性が現れた。


「あら、あなたがレオナの新しい婚約者ね」


「初めまして、天道詩音と申します」


「レオナの姉のリーゼロッテよ。天道ね・・・東の大陸の方かしら?いずれにしても聞いた事の無い家名だけど」


「リーゼお姉様、その物言いは少し失礼でなくて?」


「あらごめんなさい。でも当家に加わるのならそこそこの血筋が無いとねぇ。お爺様も心配なさってたわよ?」


リーゼロッテが意地悪そうに言う。

そこに割って入ったのはレオナの父であるアルバートだった。


「その点は安心したまえ。名前こそ違うがこの娘は立派な貴族の出だよ」


「そう、ならいいのですが」


リーゼロッテは苦虫を潰した様な不機嫌な顔をするとその場を去っていった。

一方詩音はこの程度の嫌味は覚悟していたので別になんとも思っていなかった。

そんな詩音を心配してレオナが駆け寄る。


「大丈夫、シオン?ごめんなさい、姉はまだ婚約者がいないから不機嫌で八つ当たりしてるのよ」


「ええ、大丈夫ですよお姉様」


こうして第一難関を突破した詩音は大広間に通される。

そこには豪華な食事が並んでいた。

そして幾人かの使用人と、レオナの家族や親戚であろう紳士淑女、その子供達がいた。


「じゃあ私は挨拶周りがあるからあなたは好きにしていなさい」


「はい、お姉様」


レオナが詩音から離れると、詩音のドレスをクイっと引っ張る子供がいた。

どうやらレオナの親戚の子供達のようである。


「お姉ちゃん遊ぼうよ」


「いいわよ」


快諾した詩音は子供をあやすのも極めている。

子供達に連れられ広大な中庭にまで連れてこられた詩音。

そこで詩音に一人の少女がおねだりをしてきた。


「お姉ちゃん魔女なんでしょ?魔法を見せてよ」


「いいわよ・・・ブック!」


何の魔法にしようか悩む詩音。

回復魔法は地味だし攻撃魔法は危ないし・・・少し悩んだ挙句召喚魔法にする事にした。


「竜王デュオンよ、我の前に姿を現せ!」


巨大な竜が現れ興奮する子供達。

そしてそこには一人の老人がいた。


「お主はデュオン、デュオンじゃないか!ワシじゃよ、エドゥインじゃ!」


「おおエドか、久しいナ」


「あの・・・お爺さん、デュオンと知り合いなんですか?」


「デュオンを召喚したのはお主か。若いのに大した腕前じゃのう。ワシの名はエドゥイン、ここの当主じゃ」


「という事はお姉様のお爺様・・・ってコトですか?」


老人は無言で頷く。

女性の魔力が強いこの世界で竜王デュオンを召喚できる程の実力の持ち主という事は相当強いのだろう。

さすがレオナの祖父だと感嘆する詩音であった。


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