第35話「お姉様と初任務」


突然だが魔女である詩音とレオナに王都から勅命が下された。

その内容は王都の結界近くにいる大型の邪竜の討伐である。

王都から魔女の公認を受け様々な特権が得られるかわりに、

こうして任務を受ける事がたまにあるのだ。

そういう訳で王都に向かう詩音とレオナ。

レオナと詩音は任務用のローブに着替え、いつでも戦闘が出来る様になっていた。

とは言っても現在は王都へ向かう馬車の中であるが。


「お姉様と任務だなんてわくわくしますね」


「遊びじゃないのよ、シオン」


はしゃぐ詩音を諫めるレオナ。

面倒のかかる子だと思う一方で、その甘えっぷりに少し喜びを感じていた。

以前のレオナにはなかった感情だが、シオンを妹にしてからは何かが変わったのだ。

その何かがいつまでもなくならない様に願うレオナであった。


「さあついたわよ、起きなさいシオン」


「あれ、私寝ちゃってました?」


「ぐっすりとね」


「すいません、楽しみで昨日寝れてなくて・・・」


「まあいいわ。早く馬車から降りるわよ」


「はい、お姉様!」


詩音は顔を軽くはたき気合をいれると馬車から一歩ずつおりた。

本当なら駆け下りている所だが、これ以上レオナに醜態を見せられない詩音は優雅に行動する事を心掛けている。

それを見て安堵したレオナは馬車から降りると王都の入口へと向かった。


―王都入口



「お待ちしておりました。学園の魔女様達ですね?」


「はい、重力の魔女レオナと地球の魔女シオンです」



門番が無機質に対応してくるとレオナが代表してそれに応える。

普通こういうのは「こんな小娘で大丈夫か?」みたいな舐めた態度が定番だけれども、どうやらよく訓練された門番らしい。


「邪竜達は北の門の結界付近にいます」


「邪竜達って、複数いるんですか?そちらの情報では大型のが一匹と―」


レオナが任務内容が違う事に食い下がる。


「申し訳ありません。手違いがあった様で・・・」


前言撤回、情報伝達を誤る様な兵士では訓練された兵士とは言えない。

恐らく他の兵士のせいでもあろうが、レオナは不機嫌そうに門番を見た。

深々と申し訳なさそうにお辞儀をする門番に対し、シオンが助け舟を出した。


「まあいいじゃないですか、何匹増えても同じ事ですよ」


「まあ、それもそうね・・・以後は気を付けて下さいね」


「は、はい!」


レオナは門番を注意すると、シオンの手を取り王都の中に入った。

目的地は北の門である。

王都の中は人で溢れており、とても外で邪竜が暴れてるのだとは思えない盛況ぶりだった。

それもその筈、王都は詩音の張った強力な結界で守られているのだ(秘密だけど)。


「気を引き締めなさいシオン。後修行の為に例の魔術書は使っちゃ駄目よ」


「はい、分かりました。お姉様」


こうして話してる間に北門についた二人。

結界の外には既にすぐ側にまで邪竜達の群れが迫っていた。


「じゃあさっそく・・・。炎よ!」


詩音が邪竜の群れに手をかざし呪文を唱えると、規格外の炎魔法が手から放たれた。

邪竜達は断末魔を上げるとそのまま灰塵と化した。


「消化もわすれずにっと。水よ!」


先程の炎に大量の水が降りかかる。

木々に燃え移っていた炎はあっという間に鎮火した。


「ふう、任務完了ですね」


余裕の笑みで額の汗をぬぐう詩音。

しかしレオナは油断せず表情を崩していない。


「いえ、報告にあった巨大な個体がまだ残っているわ。油断しないで」


レオナが注意した矢先に空から茶色い大型のドラゴンが現れた。

恐らくこれが情報にあった大型の邪竜であろう。


「キサマラカ、ワレラノ同胞ヲタオシタノハ!」


「だとしたらどうするの?」


詩音は邪竜の問いに真っ先に答える。


「小癪ナニンゲンドモメ、八つ裂キニシテクレルワ!」


邪竜は怒り狂い詩音とレオナ目掛けて鋭い巨大な爪で攻撃してくる。

詩音達は上手く回避したが、その跡は地面が大きくえぐれ、大きな爪痕が残されていた。


「あれを受けたらひとたまりもないわね」


「あたらなければどうという事ないですよ、お姉様」


詩音とレオナは邪竜から距離を取ると臨戦態勢に入った。

そしてレオナが詩音に向かって指示する。


「私が重力魔法であれの動きを止めるから、あなたはその隙に攻撃しなさい」


「わかりました、お姉様」


「いくわよ!」


レオナが邪竜に向けて手をかざすと邪竜に50倍の重力がかかる。

邪竜は立っていられなくなり、その場に倒れ込んだ。

そして詩音はその間に氷の長剣を精製し邪竜に斬りかかる。


「はあああああああああああ!!」


グギャアアアアアアアアアアア!?


氷の長剣は強化魔法で更に強化され巨大な氷の刃となり、邪竜の首を両断した。


「ふぅ、50倍の重力はさすがに堪えるわ・・・」


「アシストありがとうございます、お姉様!」


こうして任務を終えた二人だった。

帰りは当然王都を観光してデートを楽しんだ・・・筈だった。


「王都の方に報告したら急いで学園に戻らないといけないからそんな暇ないわよ」


詩音の王都デートの案をあっさりと断るレオナ。

レオナも本当はデートしたかった様で、残念そうな顔をしている。

それを見た詩音はこれ以上我侭を言ってはいけないと思い諦めた。


「残念そうな顔をしても駄目。これも魔女の務めなのよ」


「は~い」


こうして詩音の初任務は幕を閉じた。

こうなったら馬車で思い切り甘えてやる、とはりきっていた詩音だったが、疲れからかまた熟睡してしまう。


「しょうのない娘ね」


レオナは半笑いしつつも詩音に膝枕をした。




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