第33話「真の決闘」


―学園外部の荒野


「ここなら学園に迷惑はかからないわ」


「シオンちゃん、予め言っておくけど私はギブアップは認めないからね。死を覚悟して貰いたい」


「私はギブアップを認めるわよ。でも容赦しないからね」



「それでは時の魔女レナスと地球の魔女シオンとの決闘を開始します。勝敗はどちらかが死亡するかギブアップするかで決まります。いいですね?」


「「はい」」


この国の決闘委員会なる組織からルール説明がされる。

決闘の賞品はレオナとの正式な婚約だ。


「じゃあいくよ、シオンちゃん。杖よ!」


5本の杖が召喚され宙を舞う。

以前と同じ時止めのレーザーを放つ杖だ。


「こちらこそ!杖よ!そしてレビデイト!」


詩音は自身に浮遊魔法を掛け、同時に7本の杖を召喚し浮遊させた。

さすがに二度目の相手だ、対策は練ってある。


「杖よ!あの杖を撃ち落とせ!」


「杖よ、かわしつつ杖の時を止めろ!」


両者の杖から魔術の弾やレーザーが放たれる。

次々と落とされていくレナスの杖。

そして詩音の巧みな動きによりかわされていく時を止めるレーザー。

杖合戦の勝者は詩音だった。


「くっ、杖の扱いは向こうが上か・・・なら!時よ!」


レナスが手持ちの杖を地面に突くと決闘の場の時が止まった。


「持って5秒って所かな」


レナスは手持ちの杖を詩音に向けると魔術弾を発射した。

時を止めているのだ、どれだけ早く動けようとも間に合わない。

その筈だった。

詩音の目が一瞬こちらの方を向いた様に見えた。

目をこするレナスだったが詩音の視線は動いていない。


「気のせいだったか・・・時よ、動き出せ!」


勝ちを確信したレナスだったが詩音は予想に反し体を反り魔術弾を交わした。

まるで止まった時の瞬間を見ていたかのように。


「そんな筈は・・・まさか・・・」


予想外の出来事に狼狽えるレナス。

詩音はソレを見逃さなかった。


「杖よ!」


「時よ!」


詩音の魔術の発動よりもレナスの時止めの方が早かった。

レナスは周囲に展開された詩音の杖を叩き落とすと手持ちの杖を詩音に向け魔術弾を放った。

今度こそ攻撃が当たる筈だ。


「時よ、動き出せ」


時は動き出した。

レナスを囲っていた杖は見当違いの方向に魔術弾を放っている。

そしてレナスの放った魔術弾が詩音に着弾する。


「やった!」


思わず喜びのポーズを取るレナス。

しかしまたもや予想外の出来事が起こった。

魔術弾を受けた詩音がピンピンしているのである。


「どういう事だ!?」


「攻撃が私狙いだって分かってるから体全体に不可視のバリアーを張っておいたのよ」


「しかし私の魔術弾はそんじょそこらの魔術障壁じゃ防げない筈だ。今回は本気でやったんだぞ!」


「だからこちらも本気を出させて貰ったわ」


詩音の背後から正面に浮遊した魔術書が現れる。

強力な古代魔法が載っているアーティファクトで、

レナスの魔術弾等軽く防ぐくらいの強固な防護魔術も載っていた。


「なるほど、君の秘密兵器はそれって訳だ。・・・なら!」


レナスは再び時を止めた。

レナスは詩音に歩み寄ると、浮遊した魔術書を手に取ろうとした。

その時である。


「ここは?」


いつの間にか異空間に飛ばされていたレナス。

そしてその目の前には漆黒のローブに身を纏った女がいた。

導きの魔女、いやこの世界の神である。


「これは彼女の物だ。君には渡せないよ」


神がレナスの頭にぽんと手をやる。


「ぐわあああああああああああ!?」


その瞬間強烈な頭痛がレナスを襲う。

そして元の決闘場の荒野に戻ってくるとレナスは頭を抱え、激しく息を切らしていた。

そして時が動き出した。


「私の・・・負け・・・だわ」


「え!?」


詩音には何が起きたのか分からない。

レナスは地面に倒れ込み気絶している。

また例の魔術書のおかげで勝てたのかと、決闘に勝った嬉しさ半面、また実力で勝てなかったと残念がる詩音であった。


「いやぁ、凄い勝負だったよ」


そして詩音の背後から拍手が送られる。

それはダンディーな髭を生やした中年紳士であった。


「初めまして、レオナの父です」


「お姉様のお父様!?」


「君の事も調べさして貰ったよ、シオンさん。どうやらそこそこの貴族の出じゃないか。娘の婚約者の資格は十分にある」


「あ、ありがとうございます」


「父と親戚には私の方から説得しておこう。安心したまえ」


「お父様、来ていたのならお声を掛けてくれてもよかったのに」


「はっはっはっ、戦いに夢中になっていてね。声を掛け忘れていたよ」


観客エリアからレオナが現れ詩音の隣に立つ。


「大丈夫シオン?怪我は無い?」


「はい、お姉様。これで正式な婚約者ですね」


「今はそんな事いいの・・・無事でよかった」


「・・・お姉様」


レオナは大胆にも詩音に抱き着いた。

普段こんな事しない事を知っている詩音は余程自分が心配だったのだなぁと嬉しく思い、時間の許す限りレオナに甘え抱き着いた。


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