第32話「仲良しの秘訣」
第三十二話「仲良しの秘訣」
例の時の魔女レナスとの婚約騒ぎから一件、
詩音とレオナの間には少し距離感があいてしまった。
すれちがっても互いにごきげんようと挨拶を交わすだけでまともに話をしていない。
これはまずいと思った詩音は周囲に相談する事にした。
「誰にしようかな・・・」
今日はお茶会の日でだいたいのメンバーが揃っている。
相談する絶好のチャンスだ。
「あ、いたいた」
「あらシオンちゃん、ごきげんよう」
「ごきげんよう、レイナ様」
紫電の魔女レイナは雷の魔女イクリーサの姉である。
この二人が仲よくしている所は見た事は無いが、
喧嘩をしている所も見た事が無い。
イクリーサは気難しい人なので、今のレオナの状態と似ていると思った詩音は、
そういう人との上手い付き合い方を相談しようと思った。
「あの、ぶしつけですけど、イクリーサ先輩とは普段どういう付き合い方をされているんですか?」
「本当にぶしつけね・・・。別に特に何もしていないわよ。たまに戦闘訓練するくらい」
「拳で語るって奴ですか」
「そんな大層なものじゃないけどね。あの子、根が大人だから揉め事が起こらないのよ」
「確かに・・・」
イクリーサの性格を考えれば自分よりも強い者には従順に従うといった所だろうか。
更にどちらも同じ戦闘好きであり、趣味も合うのだろう。
どの道レオナと戦闘で仲直りだなんて考えたくもないので、
この二人のやり方は真似できないと思った詩音であった。
「ありがとうございました、レイナ様」
「参考にならなくてごめんなさいね、シオンちゃん」
となると次の候補は氷の魔女エリシアと風の魔女シルフィーヌである。
彼女達の仲の良さは裏生徒会随一だ。
しかし双方に聞かないと違う答えが返って来そうなので、
片方だけでなく二人一緒かそれぞれ二人に聞かなければならない。
詩音が辺りを見回すと、丁度二人がお茶を飲みながら談笑していた。
そこに申し訳なさそうに詩音が割って入る。
「やあシオンちゃん、ごきげんよう」
「シオンさん、ごきげんよう」
「お二人ともごきげんよう。実は相談したい事があって・・・」
「仲良しの秘訣・・・ですか?」
シルフィーヌが首をかしげる。
どうやら特別な事は何もしていないらしい。
しいと言えば常にエリシアに尽くす事を考えているとか。
さすがにレベルが高いなぁと思った詩音は今度はエリシアに聞いた。
「スキンシップを取ればいいんだよ。こういう風に」
「きゃっ!?」
エリシアが突然ハグしてきた。
慌てて離れようとする詩音。
「なんだぁ、つれないなぁ」
「いきなり何するんですか!?」
こんな事自分からやったらレオナにはしたないと怒られてしまう。
参考にならないと思った詩音は最後に一言だけエリシアに進言した。
「そういうのは妹にやってあげるべきだと思う」
「いーのいーの。シルフィーとは今のままで」
「いいんですよ、シオンさん。お気を遣われなくても」
「本当に姉想いね、シルフィーヌは」
この二人の様な絶妙な距離感は理想の姉妹関係の一つと言えるだろう。
故にこれも特殊過ぎて参考にならない。
詩音はあれこれ考えた結果、とりあえず行動に移す事にした。
「ごきげんよう、お姉様。私とお茶しませんか?」
「…別に良いけれど」
詩音がレオナをお茶に誘う。
だがその反応は淡泊だ。
詩音はレオナの隣の席に座ると、一息いれて話し出した。
「あの、婚約が決まってからは決闘は一度も負けていません!安心してください!」
「そういう情報は、常時私の所に入ってくるわ」
「ええと、例の魔術書も使ってません!」
「そう・・・それはよかったわ」
無機質に答えを返して来るレオナ。
しかし次の言葉は反応が違った。
「お姉様は私が嫌いになったんですか?」
涙ぐんで詩音がレオナに言う。
「え?」
「だって碌に口も聞いてくれないし、今だって・・・」
「そんなわけないでしょう。ちょっと考え事をしてただけよ」
「え、そうなんですか?」
「レナスとの一件でお父様や親戚の方々とひと悶着あってね。最悪転校させられるかもしれないのよ」
「転校!?」
そんなの嫌だ。
お姉様と離れ離れになるなんて絶対に嫌だ。
そう思った詩音はいたたまれない気持ちになった。
「だから言ったじゃないか。学園外での正式な決闘をすればいいって」
そこに割って入ったのは時の魔女レナスだった。
しかしすかさずレオナがそれを止める。
「駄目よ、そんなの許さな―」
「私、その決闘受けます!」
詩音は決心していた。
この決闘で煩わしい婚約問題にケリを付けようと。
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