第19話「紅蓮の魔女」


―学園中庭


ついに紅蓮の魔女サティアと地球の魔女詩音の決闘が始まる。

最早恒例となった詩音の魔女との決闘にギャラリーは沸いていた。


「降参するなら今の内だよ、シオン」


「誰がするもんですか」


詩音は怒っていた。

レオナを無視して妹にしようとしてきたからじゃない。

現在のサティアの妹のエルデールにあまりにも冷たいからだ。

こんな人の妹になんてなってやるものかと詩音の心は燃えていた。


「いいねぇその態度。熱くなってきたよ」


紅蓮の魔女サティアは興奮していた。

無名の1年生ながらもあの百戦錬磨のレオナを負かしたのである。

まさにダークホースだ。

サティアは詩音を妹にする事よりも、これから始まる決闘に心躍らせていた。



ブー!


決闘の合図が鳴る。

先に仕掛けて来たのはサティアだった。


「紅蓮の大蛇サラマンダーよ!」


サティアの身体が赤く輝き、手から巨大な炎の大蛇が現れる。

エルデールの時とは比較にならない程熱く大きかった。


「さあいくよ!」


サティアの号令で炎の大蛇サラマンダーが詩音目がけて飛んでくる。

エルデールの時同様凍らせようとした詩音だったが、それが無理だと一瞬で悟った詩音はサラマンダーを避けた。


「それで逃げたつもりかい?」


サティアが腕を動かすと炎の大蛇は詩音を追尾した。

必死に何度も避ける詩音だったが、ついに目の前にまで大蛇が迫っていた。


「仕方ないわね・・・ブック!そして氷剣よ!」


詩音が叫ぶと古びた魔術書が現れ、次の一言で伝説級の切れ味を誇る氷剣が召喚された。

すかさず氷剣を手に取り炎の大蛇に斬りかかる詩音。

大蛇は断末魔を上げるとそのまま霧散した。

そして氷剣は全く溶けてすらもいない。

意外な結末に若干苛立ったサティアだった。


「くっ、やるねぇ!じゃあこれはどうだい!」


サティアは巨大な火球を作り出し詩音めがけて放り投げた。

スピードは遅く避ける事もできたが、詩音は真正面から氷剣で斬りかかった。

その瞬間大爆発を起こす大火球。

衝撃で吹き飛んだサティアだったが、一方で詩音はぴんぴんしていた。

爆発の瞬間に魔術書を呼び出し強力な魔術障壁を張っていたのである。

魔術書の力に頼りっぱなしだが、この勝負には意地でも負けたくない詩音はこの力を惜しみなく使うと心に決めていた。


「あんた中々やるねぇ・・・地球出身の娘って言うのはみんなあんたみたいに強いのかい?」


「私の故郷に魔術は無いわよ」


「へぇ~それは意外・・・だね!」


サティアはダメージを受けた様子もなく今度は炎の鞭を作り出し構えた。

変幻自在な炎の鞭が詩音の氷剣に巻き付いた。


「ははっ、これで身動きとれないだろ?」


「そうね、氷の魔術・・・氷剣以外にももう少し試してみるわ、ブック!」


詩音に巨大な氷の羽と尻尾が生え、更に場の空気が氷点下にまで凍った。

そしてサティアの炎の鞭も凍り付き、詩音が軽く氷剣を動かすと砕け散った。


「くっ、なら今度はコイツで・・・!」


「もういいわ、ブック!」


詩音は魔術書の呪文を唱えるとサティアを氷漬けにした。

死んではいない。

が、意識はなく戦闘続行は不可能であった。


「勝負あり!シオンの勝利です!」


審判から決闘終了の合図が告げられる。

こうして紅蓮の魔女との戦いは幕を閉じた。

そして・・・



―お茶会の教室


お茶会は既に終わっていた。

しかしまだそこには決闘を観戦していた魔女やその候補生達が残っていた。

紅蓮の魔女サティアがちゃんと約束を守るか見届ける為である。

無論お茶会の主催のアリス裏生徒会長もその場にいた。


「さあ、サティアちゃん。約束は守りなさい」


「わかってますよ、アリス様」


緊張してその場に立っているエルデールにサティアが近付く。

エルデールは謝罪への期待よりもサティアへの恐怖心の方が強く怯えていた。


「エルデール、今迄雑に扱ってすまなかったな。その…あの…よ、よければまだあたいの妹でいてくれるかい?」


「よ、喜んで!」


サティアの真摯で誠実な謝罪に心打たれたエルデールには既に恐怖心はなかった。

その光景を見て決闘した甲斐があったと安堵する詩音。

そして詩音はレオナの方に向き直る。


「私が勝って安心しましたか?」


「・・・聞かなくても分かるでしょう?察しなさいな」


「はい、お姉様♪」


これで少しはレオナと打ち解けたであろうとしみじみ感じた詩音であった。



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