第3話「炎の女魔術師」
ここは聖マリアンヌ女学園、女性だけの名門魔術学校である。
詩音は父の推薦でこの学園に入学する事になった。
「天道詩音です、宜しくお願いします」
「テンドウ?聞いた事ない家名ね、没落貴族か何か?」
生徒の何人かが嘲笑う。
天道家は現代では由緒ある名家だったがこの世界では名も無いも同然の苗字であった。
しかしその名前に誇りを持っていた詩音は、この世界での貴族の名前を名乗る事は無かった。
「さて始めるとしましょうか」
快適な学園生活を送るに必要な物、それは「権力」である。
強力な魔術や魔術知識以外にも、持てるスキルを総動員して、
転生前の現代同様に学園を掌握し権力を得る事に成功した詩音。
気付いたころには1年の編入生にして最高権力の生徒会長にまで登りつめていた。
「マリア、状況を説明して頂戴」
「はい、各魔術サークルの予算は適切に配布されております」
マリアと呼ばれた眼鏡の少女は生徒会書記である。
旧生徒会メンバーが非協力的な為、詩音が独断で任命した人員であった。
詩音が選んだだけの事もあり優秀な人材で、詩音のサポートも完璧にこなしていた。
「ただ炎魔術部だけが我々の介入を拒んでおります」
「炎魔術部・・・確かエルデールさんが部長だったわね」
「申し訳ありません会長。私がもう一度交渉を・・・」
「いえ、私が行くわ」
「会長自ら!?」
「ええ、その方が面倒が無いもの」
―
「と言う訳でエルデールさん、この予算案に賛同して下さるかしら?」
「冗談じゃないわ!炎魔術は魔術部の中でも最高峰なのよ!贔屓されて然るべきだわ!」
「最高峰ねぇ・・・じゃあ私と決闘しない?負けたらサークルの予算は減額。勝ったら倍にしてあげる。あ、炎魔術は使わないであげるわね」
「いいわよ、受けて立つわ!」
エルデールは赤毛の二年生の魔術師である。
名門の出である事に加え本人の魔術の実力も相当な物である。
学園トップ10に入ると言えば分かりやすいであろう。
詩音とエルデールは中庭に出ると決闘の準備をした。
「いくわよ、生徒会長さん!」
先に仕掛けて来たのはエルデールだ。
彼女が呪文を唱えると、手から炎の大蛇が渦を巻いて迫って来る。
しかし詩音が手をかざすと同時に炎の大蛇は凍り付きその場に倒れ込んだ。
そう、魔術の才能もあった詩音は幼少から猛勉強し、魔術に関しても全属性極めていたのだ。
無論転生時に受け取ったの古代呪文の載っている古びたあの魔術書もである。
空中で炎を凍らすことなど造作もない。
「次は私の番ね」
詩音は数本の杖を宙に浮かすと、そこから炎以外の属性の魔術を放った。
人に当たれば気絶する程度には威力を抑えてある。
それをエルデールは炎のバリアで弾き返すと、今度は炎の剣に持ち替え詩音に迫って来た。
「ほらほらどうしたの、生徒会長さん!」
エルデールの炎の剣先が詩音の髪を若干焦がす。
それがいけなかった。
この美しい黒髪は詩音のお気に入りだったのだ。
「あなた・・・許さないっ!ブック!」
「ひっ」
凄んだ詩音にひるむエルデール。
詩音は例の古びた魔術書を呼び出すと呪文を唱え氷の長剣を精製した。
ただの氷剣ではない、溶ける事も砕ける事も無い、抜群の切れ味を誇る伝説級の氷剣だ。
炎の剣は詩音の氷の剣に両断され霧散した。
そしてその剣先はエルデールの赤い長髪を切り裂いた。
その後喉元に氷剣が突き付けられている。
「これでおあいこと思わない事ね」
「ひっ、ど、どうかお許しください!予算の件は承諾しますから!」
「会長、お気持ちは分かりますがどうかここは穏便に・・・」
書記のマリアがなだめる事数時間、ようやく落ち着き我に返った詩音であった。
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