不能共の感想

あきかん

前口上

 太陽が沈んだ後、夕闇が屋上を包み込んでいた。そこには静かな息遣いと共に、風が吹き抜ける音が聞こえてきた。雲の合間から透ける淡い光が、屋上をやわらかく照らし出している。

 俺とフェンス越しで向かい合っていた女が地球の重力に吸い込まれていくように堕ちていった。

 ドカン!と、大きな音が響く。女の脳漿がぶちまけられて紅く染まっているだろうアスファルトは、夕闇に紛れてしまっていて普段と変わらずに見えた。

 屋上の隅には、小さな鉢植えが置かれており、そこからは甘い花の香りが漂ってきた。周りには椅子やテーブルが置かれており、自然とくつろげる雰囲気が漂っている。

 俺はタバコを咥えて火をつけた。見下ろすと女であった物がまだビクビクと痙攣しているのが見てとれた。

 タバコを吸い終えた頃には、夕闇が消え、瞬く星々が空に現れる。屋上から見る夜景は、都会の喧騒を忘れさせ、心を癒してくれる。眠りにつく前に、ひとしずくの涙のように、琥珀色のライトが灯り、ヤニでイカれた俺の脳が人工の光を歪ませて見せる。

 ダルいけど行くか、と決断して俺は屋上を後にした。スマホをダイヤルモードにして警察に通報するも、プルルル、と鳴り続けている。

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