地味なつつじ異世界へ行く
京極 道真
第1話 始まった主役奪還
僕は、つつじ。人間ではない。つつじ神社のつつじの精霊だ。人間界で僕は尊ばれている。「しかーし、僕は、邪悪の塊である。ハハハー」ハチのビータが笑いながら「おい、つつじ、また、邪悪ごっこしてるんだ。」僕は退屈しのぎで時々、邪悪ごっこをしている。この神社は地味な神社でふだんは、参拝するひとは少ない。ただし五月のサツキ祭りを除いては。その昔は、近くの子供たちがよく境内で遊んでいた。鬼ごっこ、かくれんぼ、夏にはセミとり縁日と、にぎやか声がこだましていた。しかし、今は境内は静かだ。境内の正面結界外には大きなアスファルトの道路が走り、バスや車がビュンビュン走る。その昔、荷車で乾いた土ぼこりを舞い上げていた時とは違う。そんな長い時間の中で僕は1人、邪悪ごっこをしている。時々ハチのビータと遊んではいるが、正直飽きてきた。「何か楽しいことないかなあー」僕はつぶやいた。ビータが「そういえばウエノ公園で来週から桜祭りが始まるらしい。」「桜祭りかあー。つつじの僕と違って華やかだよな。素直に桜は、きれいだと思う。」ビータが「つつじ、やけに素直じゃないか?“邪悪の塊”はどこにいったんだ。」「邪悪な魂ねー」急に雨が降って来た。ビータが「つつじ、わるい、僕は、羽根がぬれると飛べなくなる。じゃ」そう言ってパッと消えた。僕は1人、空からまっすぐに降ってくる春の柔らかな雨をぼんやり見ていた。どれくらいの時間がたっただろう「バタン。」拝殿前の廊下から大きな音が聞こえた。「あっ」僕は思わず声を出してしまった。カバンを放り投げて寝転がって、携帯をピコピコしている女の子と”ばっちり“目があってしまった。「君は誰?」遠慮のないその女の子は、僕に話しかけてきた。僕はとっさに精霊の威厳と少し怖がらさたくなり、「私はつつじの精霊。邪悪の魂を持つものなり。」怖がるかと思いきや、その女の子は、生意気にも僕に対等に話しかけてくる。それによく考えると何かがおかしい。だいたい人間が精霊の僕の姿が見えるわけがない。”おかしいぞ。”僕は、偉ぶって「そこの子供、私の姿が見えるのか?」「見えるよ。」女の子は、続けて「君、何年生?私、小6。君は?」素直な僕は「1200歳ぐらいかな。」「へえー、結構年上なんだ。なーんだ。同じくらいだと思った。」そう言ってまた、ピコピコ携帯を触りながら話してくる。”生意気な小娘”。僕は精霊の力、人間界では魔法と呼ぶらしいがその魔法で”ピヨーン”と携帯を取り上げた。女の子は怒って「何するの。返かえして。」またもや生意気な口調だ。「くやしかったら僕と勝負だ。返して欲しいんだろう。」女の子はぶーっとした顔で「あーあ。せっかくこの雨で塾さぼろと思ってたのに。まあ、いいか。で、君は誰?」僕は大人の口調で「私はこの神社のつつじの精霊のつつじだ。人間の子よ。名は?」「私?私は五月。5月生まれで、母さんたちは五月と書いて”つつじ”と読ませたかったみたい。けど、おじいさんが”さつき”が良いって言ったみたいであっさり名前は決まったみたい。”さつき”が私の名前。昭和っぽいって言われるけど、結構、気にいっているのよ。それに五月の五が入っているし。」「へえー、いい名前だね。」僕は無意識に友達口調で話してしまった。「でしょう。」さつきは子供らしく笑った。僕は記憶の中で過去に同じような会話をしたことがあったことを思い出した。だが、忘れた。僕らの寿命は本当に長い。それに比べて人間の寿命は短い。僕らにとって、ほんのわずかな”時間・とき”だ。しかし、この”さつき”は不思議な子だ。僕が見える、怖がらない。僕は少し、さつきに興味が、わいた。つつじの精霊としての威厳はさておき、「なあ、さつき、外の世界のことを教えてくれないか?」「外の世界?」「僕はこの境内からは出れない。僕が動けるのはこの境内の中と、精霊界のみ。境内には安全上、人間と交わらないように目に見えない、結界が張ってある。さつき、正面の門をよーく見てごらん。雨の間からキラキラ光る糸が見えないかい。」さつきはじーって目をこらし、「見えた。ほんとキラキラ糸が光ってる。あれが結界ね。でも私さっきあの門から入ってきたのに何も気づかなかったよ。ほんとにあれが結界?ただの蜘蛛の糸だったりしてー」「さつき,
僕を嘘つき呼ばわりするな。あれは確かに結界だ。」さつきは「はい。はい。」と軽く僕をあしらった。「で、話の続きだが、さつき、あのバス通り、結界外の話をしてくれ。」さつきは、いいわよ。でも先に携帯返して。」と僕を見た。僕は魔法で携帯を空間移動する。「つつじ、でも外の世界って普通過ぎて退屈かも。それに何かと決まり事が多い。みんなと同じっていうのが、だいたい正確らしい。だから退屈なのよね。つつじ、こんな話で大丈夫?」「あー、大丈夫だ。」さつきは話を続けた。「大通りには車やバスが走っていて、だいたいの人間は歩かずにバスに乗って、遠い目的地まで行くの。私は塾に行くときに使ってる。バスに乗ってる。今日もこれから学習塾の時間なの。でも今日は気分的に行きたくなかった。塾でテストの日だったから。」僕は、すかさず、「それは、サボりと言うが、」さつきは、すぐさま「サボっても私は大丈夫。こう見えて、結構頭がいいの私。それに雨。雨が降ってきたからやめたの。」「そうか。」僕はさらに「さつき、雨は嫌いか?」「いいえ、逆よ。私は雨が大好き。雨女って自負してる。雨の日は必ず良いことが私に起こるの。面白いでしょう。」さつきがまた、無邪気に笑った。大人ぶった顔より、僕は、さつきの笑った顔の方が好きだ。「さつき、学校は?友達は?」僕は彼氏でもないのにズケズケと質問し始めた。僕は精霊なのに。さつきは「学校?私この4月に引っ越してきたばかり、だから正直よくわからない。学校はそれなりに楽しいよ。特に変わった生徒も,先生もいないし。いい子が多い。中でも”桜子。さくらこ”って女の子はすごい。この子は、もちろん頭もいいし、運動もできる。それに私の次に顔がいい。ほんと反則よね。全部持ってる。」僕は、さつきの言葉の中に嫉妬を感じた。さつきは、僕を見て。「あー、やっぱり無理。嘘つけない。つつじ、やっぱり、なぜか、つつじに嘘はつけない。なぜだろ?まあ、いいか。同じ5月生まれで気があったからかな。」僕は話をせかすように「それで、さつき嘘って何?」「みんな、いいってところ。私負けず嫌いなの。一人ライバルがいるの。」僕はすぐさま、「”桜子”だろう。」「つつじ、どうしてわかったの?」「誰だってわかるよ。桜子のこと話すとき、さつき目がキーッてこわい感じしたもん。」「へーえ、顔に出てた?いやだな。でね、正直悔しいけど、桜子に何度か負けてるの。テストの成績でね。頭の良い私にしてみたら、えーーーって感じなんだけど。それにクラスでも人気者で。私の頭の中で、桜子を見ると”ざわざわ”するの。なんか敗北感がね。」僕は思った。やっぱり5月の”つつじ”に”さつき”は、やっぱり地味なのか。「さつき、じゃ、その”桜子”のポジションを”さつき”が奪還すれば?ちょうど僕もウエノ公園の桜祭りの”桜”にやきもちを焼いていたところだったんだ。二人で”桜”から主役の座を奪還しようぜ。」こんなグタグタの僕で、主役奪還できるのか心配だが。大丈夫だ。僕は精霊だ。それに“さつき”がいる。理由はないが確信はある。「それで、つつじ、桜祭りって、これから上野行くの?」「違うよ。精霊界、”フェラン“僕の故郷。桜祭りは、フェランのウエノ公園の桜祭り。この人間界にも同じ名前の公園があるのは知っているけどね。フェランは存在する時空空間が違うんだ。」さつきの目がキラ光った。「フェラン精霊界か、行ってみようかな。」「いざ、主役、奪還。」さつきと僕の桜への宣戦布告。事は、突然動き出した。
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