進藤路夢

「どうした二宮」

 俺が部長との話を終えて、自分の席に戻ろうとした時、異変を感じた。

 グスン

 というオフィスではあまり聞かない音を聞いたせいだ。不意に向かいの席の二宮を見ると、顔は無表情だが、液体が顔から溢れていた。

「うん? どうした」

 もう一度聞く。二宮のパソコンには

「しずく」という文字が溢れていた。

「先輩、しずくってこんな綺麗な漢字なんですね」

 その文字の羅列の最後には

「雫」

 と、書かれていた。

 こいつは結婚して3年。子供が生まれてもうすぐ一年だ。

「何かあったか?」

「僕、食器拭き担当なんです・・・」

 聞けば、育児ノイローゼ気味の奥さんに、食器の拭き残しのしずくの事で、毎晩怒られているらしい。

「頑張ってるんだな」

「しずくって、こんなに綺麗な漢字なんだ」

 今の俺には何も出来ない。肩を叩き、自分の席に帰ろうとした。

 そこで、ふと二宮のパソコンにしずくが落ちている事に気づき、ティッシュで拭こうとした。

「やめください!! こいつだって、こいつだって、僕の目から溢れた雫なんです! 大事な大事な雫なんです!」

 二宮はすごい剣幕だ。

「わかった、わかった」

 俺は慌てて、自分の席に戻った。

 あいつはやっぱり疲れてる。

 だって、あのしずくは目からじゃなく、鼻からたれたものなのだから・・・

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進藤路夢 @niseuxenntu

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