第十五話「憧憬」

                 ◇


 微かな月明かりが射す夜。

 街道から少し外れた一本樹の下で、焚き火の煙が濛々と立ち昇っている。

 積まれた小枝の下に潜んだ火蜥蜴イグニは、気持ちよさそうに目を細めていた。


「ハラ減ったなあ……」

 

 樹の上に留まったグエンはぐったりと項垂うなだれていた。今日だけで三十回は吐いた台詞。相棒はというと、知らん顔をして煌々と燃える炎に向かい合っている。

 食糧難による飢えなどもはや日常茶飯事なのだが、今回に限っては深刻だった。

 飯のタネである野盗の類が無限に湧きでる訳もなく、農村に立ち入れたとしてもこの御時世。まず分けてもらえるだけの食糧がない。狩りをしようにも野山に獣の姿は無く、川魚など釣ろうと試みたところで日が暮れる方が早いのは間違いなかった。

 もういっそ、そのへんの土や草でも食うべきなのだろうか。


「……」

 

 つい、と。カグラギはすぐ横に居る灰髪の男に視線を投げる。

 細切りの乾燥肉を齧りながら、シオンはカグラギを睨みつけた。


「……あ? 何見てんだ。言っとくが死んでもやらねえぞ」

「…………、死んでも、か」

「え? 今なんかお前ボソっと不穏なこと言った?」

「あー俺様なんか急に人間の眼ん玉食いてえ気分だなァ~耳も美味ェんだよなァ~」

「うおおお! 寄るんじゃねえゴミクソ共! ぶっ殺すぞ!」


 急に肩の上に乗ってきたグエンを、慌てた様子でシオンが振り払う。


「……そういえばシオン。何でお前、こんなところに居るんだ」

「いや、何でもクソもあるか! テメェあん時あんだけ言っといたのに、クソみてぇな騒ぎ起こしやがって! 責任が俺らの方に回ってきて、命からがら街から逃げてきたんだよ! 慰謝料払えゴミ野郎!」

「なるほど。それは――すまん」

「んだそのざっくりとした謝り方! 舐めてんのか!」

「まぁまぁそう怒んなよ灰被りちゃん。カグラギはな、お前ほどの男があんな小さな街の探索者で終わっていいはずねえと思って、あえて騒ぎを起こしてくれちゃったわけだよ。なあ?」

「へぇーそうなの!? うわー! 嬉しいなー! よしテメェ殺す!」


 シオンが次々投げつけてくる短剣を、カグラギは平然と黄鉄笠を構え防ぎ続ける。

 そこに。


「……なにしてんの? 喧嘩?」


 忽然と。黒衣に身を包んだ赤毛の魔女と、長毛の白猫が姿を現した。 


「お。また来たのかお嬢ちゃん。懲りないねえ」


 グエンが軽口を叩き、カグラギは大きく溜息を吐く。

 一方でシオンは、呆然と口を開けていた。


「何の用だ。異端の魔女」

「リーゼロッテ、ね。いい加減そろそろ覚えて――」

「え? ちょ、か、可愛い……何この美少女。お前の知り合い?」

「一方的に付き纏われてんだよなぁ、カグラギ。そりゃもう激しく熱烈に」

「はあァん!? クッソ何で昔からテメーばっか……あ! ごめんね! 俺シオンっていうんだけどッんぐ!?」


 詰め寄ってきたシオンに対し、リーゼロッテは魔眼で睨み動きを止める。


「さっきからうるさいんだけど、誰これ?」

「昔の知り合いだ。……今すぐ術を解け」

 

 目線を外したまま、カグラギは左手に持った十字弩クロスボウの狙いを魔女につける。


「わ、分かったわよ。……ごめん」


 リーゼロッテが支配を解くと、シオンは呼吸を荒げながら尻もちをついた。


「ッ……び、びびった。今の魔術か? ってことは……」

「魔女だよ。灰被りちゃん。うっかり手ぇ出ださねえほうが身のためだぜ」

「……マジかよ。……っとお!?」


 リーゼロッテがシオンの眼の前に硬貨が一杯に詰まった巾着袋を投げ落とす。


「え? 何だこれいきなり。怖いんだが」

「慰謝料。さっきの話聞いてたけど、あれ、あたしのせいだから。それで足りるか分かんないけど」

「え? ……あ、はい。そ、そんじゃありがたく貰っときます……」

「その代わりちょっと、静かにしてて」

「あ、うす。どうぞごゆっくり。しゃす」


 へこへこ頭を下げながらシオンは焚火の傍まで戻ると、座って袋の中身を数え始める。カグラギは構えていた十字弩を下ろすと、再び魔女に問いかけた。


「……それで、何の用だ」

「……用件自体はこないだと同じ。だけど」

「……なら聞く気は、」

「ま、待って!」


 リーゼロッテは大声で遮ると、視線を右往左往させ、何か言いたげに口を動かす。


「あ、あの。その。……ご、ごはん」


 カグラギが眉を顰めると、リーゼロッテは後ろの手に持っていた野兎を突き出しながら叫んだ。


「ごはん食べてないんでしょ! だ、だからこれ。一緒に食べないかなと思っ、て」


 相手の冷め切った反応に、紅潮した顔が少し涙目になる。そうしてリーゼロッテは深く視線を落とすと、手にしていた野兎を地面に置き、踵を返した。


「……ごめん。とりあえずこれ、置いてくから。……それじゃ」

「……待てよ」


 呼び止めたのは、シオンだった。

 ぼりぼりと頭を掻きながら、面倒くさそうに息を吐く。


「……。お前、その兎。自分で捌けるか」

「え? で、できない、けど」

「なら、捌き方コイツに教えて貰え。そんで、その分け前として肉を半分に分けろ。それなら真っ当な取引になる」

「……シオン」

「口挟むなってか? は。寝言ほざいてんじゃねえよ。何揉めてんだか知らねーがな、どうせお前、そいつの置いてった兎、喰わねえ気なんだろ? アホくせえ。さっきからぐーぐー腹鳴らしやがって、いい加減うるせえし迷惑だっつの」


 傍らに座るカグラギに毒づくと、シオンはリーゼロッテの足元に袋を投げ返す。


「それに、そっちもそっちだ。金だの食糧だの勝手にぽいぽい押し付けていきやがって、何だこの大金? 払いすぎだバカ。等価交換って言葉知らねえのか? 世の中ってのはな、持ちつ持たれつのバランスで成り立ってんだよ。一方的に助けるとか与えるとか、ふざけんじゃねえ」

「……見かけに似合わずなかなか良い事言うのね貴方。その考え方には私も賛成」

「あ? う、うお。なんだこの猫、喋るのかよ」

「カカカ。灰被りちゃんの言う通りにしたほうがいいんじゃねえの、カグラギ。マジでそろそろきついんだろ? それにどうせこの嬢ちゃん、お前がまともに話すまで付き纏うぜ。いい機会だと思って、腹割って話しとけよ」

「そうそう。大体な、こちとらお前らのいざこざのせいで職失ってんだ。どっちも嫌とは言わせねえ。分かったらさっさとしろ」


 それを言われると、どうにも弱かった。

 カグラギは立ち上がると、落ちた野兎を拾い上げる。


                  ◇ 


「……カッー。久々にまともな飯にありつけたぜ。飼い主変えようかな。嬢ちゃん俺様を養う気ない? ちなみに好物は人間の目玉です」


 グエンは満足そうにひょこひょこ跳ねながらリーゼロッテの足元に近寄っていく。


「うん、気持ち悪いから無理」

「性格も悪そうだわ、リズ。すぐ裏切りそう」

「ひどくない? なあおい、お前からも何か言ってやってくれよ灰被りちゃん」

「実際その通りだろうが。とっとと死んどけクソ鴉」


 すっかり馴染んで談笑を始める二人と二匹をよそに、カグラギは武器の整備を再開していた。リーゼロッテは立ち上がるとその横にしゃがみ、並べられた武器を物珍しそうに眺める。


「……なんだ?」

「え? いや……すっごい数だなと思って。なんでこんなに持ち歩いてるの?」

「コイツの趣味だよ。他人の武器を奪って殺すのが好きなんだ」


 グエンがまた適当な事を言う。カグラギはそんな事を趣味にした覚えは無かった。

 しかしリーゼロッテの疑問も当然のことである。布の上に置かれた武器の数は一人の人間が持ち歩くにはあまりに多すぎる。

 二対の三日月刀ショーテル。それらと併せて用いる鎖と分銅。手斧、戦槌、更にそれぞれ形状の異なる短剣短刀が計十本、片手で扱える小型の十字弩クロスボウ。武器商人もかくやと思われる品揃えであり、その殆どがこの辺りでは馴染みのない異国風の造りだ。


「あ、これ知ってる。カタナ、ってやつよね」


 特にリーゼロッテの眼に留まったのは大小揃いの二つの剣――カタナ。かつてかの狂王に仕えたという《扶蘇》、極東の魔島を故郷とする傭兵達が用いた湾刀だ。彼女は昔読んだヴァン・ディ・エールの探索記に登場するこの剣の事を覚えていた。

 柄に巻かれた糸が菱形の隙間を形成しているのが特徴的で、反りのある刃はそれ自体が芸術品であるかのように美しく、冬夜の月を思わせる冷たい輝きを放っている。

 妖刀使い――それは全てを一太刀の元に断ち切る魔剣を持つという。 

 これが、そうなのだろうか。リーゼロッテは惹かれるように手を伸ばした。


「触るな」


 低い声で静かに言い放つと、カグラギはカタナを掴み引き寄せる。


「本題に入れ。用件はなんだ」


 変わらない、淡々とした物言い。鉄の檻越しに話しかけているかのような隔絶感。

 ぐっとリーゼロッテは下唇を噛み、意を決して話しかける。


「……取引がしたい。カグラギ。あんたを傭兵として雇いたいの」

「腕のいい傭兵なら、他にいくらでもいるだろう」

「居ないわよ。魔神を倒せる傭兵なんて、そうそう出会えるもんじゃない」

「前にも言ったが、俺には別の目的がある」

「それ。アンタの人探しを、あたしなら手伝える。この眼の力を使えば――」

「……何故、そこまで俺にこだわる?」


 いつまでも食い下がる相手を、カグラギは冷たく睨みつける。


「それは――あんたが、信頼できそうだから」

「……信頼?」

「……ここ最近、あんた達の事を尾けさせて貰った。見てた限り、やっぱりアンタは《妖刀使い》の噂とは全く違ってる。快楽殺人者でも異教徒の極悪人でもない。単に、悪党を殺す事に躊躇がないってだけでしょ。だって、いくら自分が飢えても、ボロボロになっても絶対に善人から奪う事だけはしなかった。妙な噂が広まってるけど、それがあんたの、カグラギっていう人間の正体。……違う?」


 カグラギは何も答えない。シオンは腕を組み、会話を静観していた。


「……お前は俺を勘違いしている。俺はただの無法者だ。気に入った人間が居れば助け、金を持った悪党が居れば殺す。ただそれだけの男だ」

「……嘘。とぼけたって無駄よ《妖刀使い》。三年前、あんたが何をしてたかあたしは知ってる。助けてたんでしょう、火に焼かれる人達を。斬ってたじゃない、何人もの魔女を。じゃあ、あれは何? どういうつもりだったの?」


 リーゼロッテは食い下がる。――あの日、よぎったのは一つの直感。

 義憤に駆られ、たった独りで悪と戦う男の姿。


「……三年前か」


 言うとカグラギは一本樹を背にして座り込む。そして眼を細めながら呟いた。


「あれは、失敗だった。俺は間違いを犯した」

「……え?」


 失敗。間違い、だと? それこそきっと何かの間違いだとリーゼロッテは思った。だが聞き違いではない。目の前の男は今、自らの過去の行いを否定した。


「俺の目的は、戦いだ。悪党を殺す事だ。誰かを救うなど、もののついでに過ぎない。弱者を虐げていい気になっている、そんな連中を斬り刻む瞬間こそがたまらない。自分が生きていると実感できる。故に俺はただそれだけを追い求めていた」


 戦い、殺す事が目的――? ウソだ。有り得ない。しかしそれを信じざるを得ない程の暗い意志が目の前の男から発せられていた。ぼろぼろと、崩れ落ちていくような心象。全身の肌が粟立つ。視界が歪み、異様な熱が身体を支配する。リーゼロッテはひどい立ち眩みを覚えていた。眼の前の男は、淡々と言葉を続ける。


「三年前――《魔女宗》という存在を知った時、俺は歓喜した。これこそが俺が追い求めていた敵だ。殺すべき巨悪だと。――現実として、奴らを葬るのは俺にとってこの上ない快感だった。罪人を助けた事など、奴らへの挑発に過ぎない。しかしそれが過ちだった。増長した俺は敵の罠に掛かり、捕らえられた」

「――違う」

「あれほど悔いた事は無い。俺は決定的な間違いを犯した。《魔女》になど最初から関りあいになるべきじゃなかった。アレは俺の手に余る。愉しむには、割に合わない相手だった」

「そんなのは、嘘」

「だから俺は諦めた。小悪党は小悪党らしく、身の丈にあった生き方を、」

「嘘だッッッ!!」


 張り裂けそうな、悲鳴にも似た声。リーゼロッテは赤毛を両手で掻きむしり、耳を塞いでしゃがみこんだ。ひどい頭痛が襲ってきていた。


「違う……妖刀使いは、あんたは、絶対にそんな奴じゃない。殺したいだけだから人を殺すなんて、そんなの」

「勝手な妄想だな。――俺は実際に、二百を超える人間をこの手で殺めている。ただ己の、欲望の為だけに」

「……え?」


 二百人。あまりにも実感のない数字に、リーゼロッテは瞠目した。仮に世が戦争の最中だったとしても、一人の人間が奪う命の数として、あまりにも多すぎる数。しかし男の語る言葉からは、一分の嘘も感じられない。本気で言っているのだと、本能的に理解してしまう。


「そんな、まさか、そんなわけ――」

「何を驚く? ……お前も同じだろう。最もらしい理由を作り上げて、一体何人を殺めた? 結局は大義名分を掲げ、自分の悪行を正当化しているだけに過ぎない」

「……それは、認める。だけどあたしのしてきた事は間違いなんかじゃない。悪い奴は死ぬべきだし、それが、誰かを救う事に繋が――」

「救う? お前は今まで何かを救ってきたのか。あの街で魔女を殺して、巻き添えに何人もの人間が命を落として。それで何か変わったか? どうせすぐに代わりがやってきただろうな。そしてきっとまた、無実の人々が捕えられて殺されている」

「それは、――」 


 言葉が出ない。リーゼロッテは今までの事を思い返した。自分は今まで誰かを救ったことがあっただろうか? 所詮、自分がやってきた事は末端の魔女を貶める程度の事ではなかったか。実際、今のところ魔女達の計画には何の影響も及ぼしていないのは揺るがない事実だった。


「そもそもお前は、本気で世界を変えられると思ってるのか? 悪人を殺せば善人は救われると? ――そんなもの。狂人か、あるいは馬鹿の考えだ」

「だま、れ……あたしは、あたしは」

「今度は言い訳か? 何を言った所で結局、お前は人殺しの屑でしか」

「黙れッ!!」


 ありったけの声でリーゼロッテは叫んだ。感情の昂ぶりと共に放たれた魔力が突風めいて吹き荒び、グエンの留まる一本樹の枝を揺らす。


「リズ。……リズ。目を醒まして」


 白猫が呼びかける。気がつくとリーゼロッテは息を切らしながら地面に倒れ伏していた。頭を抱えながら顔を上げると赤く歪んでいた視界はすっかり正常そのものに戻っている。一体、何が起きた? 頭に血が上り気絶でもしたのだろうか。そんな疑念よりも、今は。汗ばんだ身体の不快感と、込み上げてくる怒りの感情が勝る。


「……、」


 額の汗を拭いながらリーゼロッテは立ち上がった。涼やかに吹く夜風が、熱した身体と心を冷まし、そのまま凍らせていくかのようだった。

 カグラギは一本樹にもたれたまま、腕に乗った火蜥蜴を指先で撫でている。木の上に留まった鴉は、胸の赤眼を半分に閉じながらくつくつと嗤っていた。

 リーゼロッテは落ちた帽子を深く被り直すとカグラギに背を向ける。


「もう、いい。やっぱりあんたの力なんていらない。妖刀使いは死んだんだって。よくわかったから」


 その声色は冷たい。しかし今にも泣きだしそうな涙声だった。実際、泣いているのだろう。鼻をすする音が隠しきれていない。


「そうか」


 一瞥もせずに、カグラギはそう言った。


「あたしはあんたとは違う。絶対逃げたり、諦めたりなんかしない」


 憧れたモノは嘘だった。初めから存在しなかった。それだけのこと。自分の目的に変わりはない。きっかけが何であろうと、芽生えた気持ちは嘘ではないから。

 ――それを続けるだけ。


「そうか」

 

 興味がなさそうに、カグラギはそう言った。

 その冷たさに、少女は打ち震える。

 しかし拳を握りしめ、最後の問いを絞り出した。


「最後に一つだけ聞く。……なんで、あたしを助けたの。なんであそこで、あたしを殺さなかったの」


 トロアンでカグラギは彼女の窮地を救い、彼女が魔女と知ってもなお見逃した。そこにどんな意味があったのか。何を思っての事だったのか。

 虚空を見上げ、カグラギは息を吐く。何か言葉を探しているようだった。

 やがて視線を落とすと静かに口を開く。


「……ただの通りがかりだ。特に意味は無い」

 

 リーゼロッテは握りしめていた拳をそっとほどく。

 その瞳には、もう光がなかった。


「……そう。そういうこと」


 相手の答えは何の説明にもなっていない。ただの誤魔化しだった。だがそこから分かる事が一つある。――本心を晒す気はない。お前になど俺は向き合わない。邪魔だ。疾く消えろと。単に彼はそう示したのだった。

 ゆらりと、夜の闇の中へリーゼロッテは身を躍らせる。


「じゃあね。妖刀使い。……ほんとに死んでればよかったのに」


 そして呪詛の言葉を吐き捨てると、音もなく姿を消した。残された白猫がカグラギに静かに歩み寄る。藍玉の瞳は彼を責めるわけでもなく、どこか悲しげだった。


「……残念だけれど。交渉は決裂みたいね。だけど、一つだけ。私たちはこれからヴァロワに向かうわ。数日後に魔女の公開処刑が行われるらしいの。……あの娘はそれを止めるつもりだったのよ。あなたと一緒にね」

「……」

「言いたいことはそれだけよ。それじゃさようなら、妖刀使いさん」


 鈴の鳴るような声でそう言うと、白猫も姿を透明に薄めて立ち去っていく。

 それを見送ると樹の上に止まっていたグエンがカグラギの元に舞い降りてきた。


「かっかっか。飯食ったら後は用済みってか。つれないねえお前も」


 いけしゃあしゃあと、グエンはそんなことを言う。

 カグラギは無言でそれを睨みつけた。


「あん? なんだよ。俺はあくまでお前の気持ちを代弁してやったんだぜ」

「……分かってる。だから止めなかった」

「へえ。それで今どんな気分だ? 昔の自分をぼこぼこにして超最高って感じ?」

「……さあな」


 カグラギは立ち上がると魔女に吹き飛ばされた武器を拾い集める事にした。その内の一本は、よほど遠くまで飛ばされたのか、見つけることはできなかった。




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