第二章「不香の花は咲かない」

幕間・ある少年の追憶Ⅱ

                 ◆

 

 化け物だと、彼らは言った。

 お前は醜いと。人の心がないと。血に酔った獣でしかないと。

 だから、剣を振るい続けた。

 善人は救い、何物も奪わず。己と同じ獣を殺し、必死で人間である振りをした。

 何度も。何度も。何度も。――何度も。

 安らぎはない。救いなどない。臓腑が腐り果てるほど無為な日々。

 だけれど、あの日。夕闇の峠道。燃えるような色の空の下で。

 獣は、一人の少女に出会った。


『人殺しなんかじゃない。君は、やさしいひとだよ。』


 あの時。獣はきっと人間になれた。初めて、守りたいものができたから。

 だけど、彼女はもういない。

 遠くへ。

 俺の手の届かないところへ、行ってしまった。



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