第十三話「慰めの報酬」

                 ◇ 


 日暮れの街道をとぼとぼと歩く男が一人。その肩には一匹の鴉が留まっている。

 黙々と歩き続ける男をよそに、鴉はわざとらしく嘆息した。


「はあ。しかし踏んだり蹴ったりだな。お前結局あの街に行って、文無しになって出てきただけじゃねえか」


 言うな、と。男は視線で意を示す。もはや声を出す気力もなかった。なにせ血まみれの文無しは街に留まるどころか門を抜けるのも一苦労だったから。傷は治癒するからまだいい。しかし装備はボロボロでおまけに空腹と来ている。当然ながら、金などない。流石にこの先の事を思うと気が重く、不満の一つや涙の一粒、身から零れ落ちそうになる。そして、男の懐から本当に何かが零れ落ちた。

 ちゃりん、と音を立てて。


「ん? おいカグラギ。何か落としたぞ」


 男はどうせ小銭だろうと思いながら落ちたモノを拾い上げた。

 しかし周囲が暗くよく見えない。もののついでだと思いながらカンテラに獣脂を放り込み、火蜥蜴に明かりを貰う。


「……おい、これって」


 男と鴉は息を呑んだ。灯火に照らされて輝くのは小さな鈍色の光。

 ただ一枚の銀貨を、男はぐっと握りしめた。


                      第一章「番い鳥は踊る」 完


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