白鳥さんの短編集(高校生編)
夢水 四季
逢坂君の昔語り
第1話
今は昔……、やはり物語といえば、こんな風に始めるのが良いのだろうが、そうは言ってもそれほど昔の出来事ではない。十年前の話だ。しかしまあ十年一昔、むかしむかし、と少し不思議な話を始めよう。
容赦なく照り付ける日差しと蝉の大合唱の中、高村秀は草刈機を動かしていた。
「あー、暑っついなー」
この日何度繰り返したかしれない台詞を口にしながら、首に巻いたタオルで汗を拭く。そして、広い屋敷の庭を見渡して溜め息を吐く。まだまだ終わりそうにないな、と秀は思った。
そういえば、何故自分は白鳥邸の草刈なんて面倒なことを始めてしまったのか、いやまあ何となく雑草がボーボーの庭が気になって自分から始めたのだけど、と半ば作業に嫌気が差しながらも黙々と草を刈っていく。
この屋敷の主人である白鳥美和子は出掛けており、現在ここには秀ともう一人、美和子の従兄妹である逢坂薫しかいない。
「秀ー、昼ご飯できたでー。そろそろ休憩にしようや」
厨房で昼ご飯を作っていた薫が秀に呼びかける。その声に素早く反応した秀は、草刈機の電源をオフにしそれを放り出すと飛ぶように駆けていった。
「やっと飯にありつけるぜ」
手を洗いテーブルに着く。薫が秀の目の前に出来立てのオムレツを置く。
「おおっ、オムレツか! 美味そー。……そういえば、お前がおれに料理を作ってくれるのって初じゃねえか?」
「そうやね。いつも料理担当は秀やから。わいのはそこまで美味くはないけどな」
「いやいや、作ってくれただけでも嬉しいって。それに、おれだってシェフみたいな料理は作れないぜ。庶民派だからな」
「でも美和子好みの味付けなのは確かやね。秀の料理を食べとる時の美和子は幸せそうやで」
「直接褒められたことなんて無いけどなー」
「まあ美和子やからな」
「ツンデレだもんな、あいつ」
「そうやね、いつかデレが来るとええね。……さて、そろそろ食べよか」
そう言って、秀と向かい合わせになるように腰掛ける。
「「いただきます」」
昼食を食べ終え、二人は客間のソファでくつろいでいた。草刈は一旦中断するようだ。
「…………なあ」
「ん? どうしたんや、秀」
秀は重大なことに気が付いてしまったというような顔をして話す。
「あのさ、さっきから何か違和感があるなと思ってたんだけど……」
「何や?」
「今、誰が語り部してるんだ?」
「………………」
「おい、薫?」
「そういうことはあまり口に出さん方がええよ」
「な、何言ってんだよ、薫。地の文にガンガン突っ込んでくるのはお前だろうが」
薫の突然の冷たい声に秀は顔が強張る。
「ま、そうなんやけど」
顔は笑っているように見えるが、目の奥が笑っていない。そんな薫に秀は恐怖を感じた。
「何か、お前おかしいぞ」
秀の言葉を無視し、薫はにっこりと笑う。
「秀、今からちょいと不思議な話をするで」
その瞬間、秀の目の前が真っ暗になった。
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