第85話 勇気ある者たち


「勇者様。本当にありがとうございました」


 魔物と戦う途中、流石に敵の数が多すぎたのでケンゴは聖鎧の擬態を解除して全力で戦闘した。彼はレンの考えに従い、ずっと勇者であることを隠してきたのだが、今回の戦闘でそれがバレてしまった。


 しかし彼はそれでも良いと思っている。


「おにーさん。とーちゃんたちを守ってくれて、ありがとう!」


「どういたしまして」


 少年とその兄も。彼らの両親も無事にファーラム王都まで逃がすことができた。


 こうしてお礼を言ってもらえる。それだけで戦った価値があると。逃がした少年とその両親が無事を確認し合って抱き合っている様子を見て、自身の行動が間違っていなかったのだと思えた。



 村人からひとしきり感謝を受けた後、ケンゴはこの王都で待機しているはずの仲間を探し始めた。しかし滞在していた宿屋にも、行きつけの店屋にも仲間の姿は見当たらなかった。


「みんな、どこに行ったんだ?」


 勝手に単独行動したから、見限られたのかもしれない。仲間に見捨てられたんじゃないかって思いが頭の中を巡る。


「いや、俺が見捨てた側になるのか。……ははっ。じゃあ、仕方ないか」


 仲間を傷つけたくないから置いていく選択をした。でも実際は、傷付きたくないと思っているのは彼の方だった。改めて自身の言動を思い返す。


 シオリにはキツいことを言った。

 彼女のせいで戦えなくなるかもしれないと。


 嫌われてしまっただろうか?


 あの時はシオリを守れれば、それで良いと思っていた。


 それでもいざ孤独を感じると、こんなにも不安になる。


 この世界に来て魔物と戦う力を得て勇者になっても、彼はまだ17歳の青年だった。滞在し始めてまだ数日の街で、知人もいない。彼は孤独に押し潰されそうになった。




「あっ、ケンゴいた。良かった。無事だったか」


「み、みんな……」


 仲間たちが歩いてきた。

 

 どうやら彼らも戦っていたようだ。

 全員の装備が擬態を解除していた。


「ケンゴさんが出ていった後、追いかけようとしたんです」


「でも別の場所でも魔物に襲われている人たちがいるって聞いて、私たちはそっちに向かった」


 レンやシオリたちの後ろには、彼らに守られたであろう人々がいた。


「あの御方が、勇者様?」


「かっこいいねー」


「拳闘士のおねーさんもかっこよかったよ!」


「賢者様の魔法は凄かったけど、勇者様はそれより強いのかな?」


「ここなら、もう魔物おいかけてこない?」


「たぶん、大丈夫だよ。ほら、絵本で見たのと同じ鎧を着た勇者様がいる」


 神聖なオーラを放つ聖鎧を身に着けたケンゴを見て、ここまで逃げてきた人々はもう大丈夫だろうと安堵していた。


 魔族が現れた時、女神が異世界から勇者を召喚して世界を救ってくれるという伝説は、この地方では小さい頃からよく聞かされる。


「ケンゴは俺の何倍も強いですよ。彼がこの街を守るので、安心してください」


「お、おい。なに勝手に」


「この世界の人たちを守りたいんだろ? 勇者やるって決めたんだろ」


「じゃあ私たちも戦う」


「私たち、勇者パーティーですから」


「そう。ケンゴだけを戦わせない。俺らも一緒に戦う」


 女神は異世界から勇者を召喚するとき、その人物の勇気や正義感をみて召喚する人物を選ぶ。その際、近くにいる勇者をサポートする仲間の勇気なども考慮される。


 ケンゴだけでなくレンも、シオリもアカリも、見ず知らずの他人を助けるほどお人好しで、誰かを守るためなら魔物と戦える勇気をもっていた。


「みんな……。ありがとう。それから、勝手なことしてゴメン」


「良いよ。二手に分かれたから、結果的にはたくさんの人を守れた」


「でも、まだ遠くから魔物が迫って来てる。それもすごい数だよ」


 索敵(範囲:特大)というスキルを持つアカリは、何万という魔物の群れがこの王都に向かってきていることに気付いていた。


「さっきこの都市の防衛をしてるって騎士さんが、ケンゴと話したいって言ってた」


「どうやってここを守るか相談したいんだって」


「わかった。行こう」


 もう勇者だということは隠さない。


 勇者だとバレれば、魔人に狙われる可能性が高くなる。しかし弱い魔物相手でも逃げるしかないこの世界の人々を危険から遠ざけるには、自分たちが矢面に立つべきだと判断した。

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