第75話 ミーナの元部下


 観衆の中、ミーナにキスをした。


 それでメイン通りに集まった獣人たちが大騒ぎしている。


 大半は俺たちを祝福してくれるものだった。少し怒りの声も聞こえたが、祝福の声にかき消されていった。


 多くの獣人に強さを認められているダズさんを倒せたのが良かったみたい。



「えへっ。やっとトールが結婚しようって言ってくれたニャ。実はウチ、結構長いこと期待して待ってたんだニャ」


「ごめん。ずっとミーナと一緒にいたいって思いながら、心のどこかで元の世界に帰らなきゃって気持ちがあったんだ。でも俺は、やっぱりこの世界でミーナといたい。君と一緒に歳をとっていきたい。そ、その……。子どもも、ほしい」


「ウチ、子どもは3人欲しいニャ! だからトールには、頑張って働いてもらわなきゃいけないニャ」


「うん。頑張るよ」


 こうして未来のことを話せるのって、なんだかすごく幸せだ。


 スキルを貰えず、言葉も話せない状態で奴隷になった。死のうと思ったこともあるけど……。あの時に我慢して本当に良かった。


 あの地獄を耐え抜いたから、今の俺がいる。


 この幸せをずっと守りたい。

 世界がずっと平和であってほしい。


 だから、残りの魔族を倒すのも頑張ろう。


 

「み、ミーナ隊長?」


 ミーナと抱き合っていると、ひとりの女犬獣人が話しかけてきた。


「ん? あっ! ケイル、無事だったのかニャ!!」


 俺から離れ、ミーナが犬獣人に抱き着いた。


「すす、すみません。お取込み中でしたのに」


 ケイルさんは俺の方を見ながら謝ってくれた。


 隊長って呼ばれてたし、ミーナの反応を見る限り、彼女の大切な部下とかだったんだろうな。


「いえ、大丈夫ですよ。ミーナのお知り合いですか?」


「ミーナ隊長の下で里の守備部隊にいたケイルと言います。トールさん、でしたよね? この度はミーナ隊長とのご成婚、おめでとうございます」


「ありがとうございます」


「ねぇ、ケイル。その……、ほかのみんなは?」


 ミーナがカールさんから離れ、不安そうに聞いた。


「グルッシュが左手を失いましたが、あの時ミーナ隊長が逃がしてくださった隊員は全員生きていますよ。何人かはこの王都に住んでいます」


「──っ!! よ、よかったニャァ」


「それよりミーナ隊長。姫って、どういうことですか?」


「えっ、あ、それは、だニャ……」


 もしかしてミーナ。自分が元お姫様って言わずに、この国から離れた獣人の里で守備部隊隊長やっていたんだろうか?


 彼女の強さと性格なら、そーゆーことやってそうだな。



 ──***──


 その後、俺たちはダズさんの家に招かれた。


 ケイルさんも一緒に来ている。

 

 かつての仲間たちがどうなったか、ミーナも知りたがった。逆にケイルさんもミーナが今までどこにいたか気になったようだ。


「少し人族の足止めをしたら、すぐに私たちを追いかけてくると思っていました。でも隊長はいつまで待っても現れず……。時間をおいて戦闘していた場所まで何人かで様子を見に行きましたが、人族は引き上げた後でした」


「限界まで戦って、捕まっちゃったんだニャ」


「や、やはりそうだったんですね。すみません。動ける者で探そうとしたんですが、子どもや老人を安全な場所に移動させるのを優先させました」


 非常に苦しそうな顔でケイルさんが説明してくれた。


 そんな彼女をミーナが優しく抱きしめる。


「うんうん、それで良いニャ。逆にウチはあの襲撃による戦果がウチの身柄だけって聞いてたから、みんなは無事だって信じてたニャ。無理しなくて正解だニャ」


「あ、ありがとうございます」


「なんだかんだでウチのことをバカな商人が買ってくれたおかげで、男にはじめてを奪われることなくトールと出会えたニャ」


「トールって言います。魔法使いです。水の」


「先ほどの戦闘、最後の方だけ見ていました。天候を変えてしまう魔法使いなんて初めて見ました。それからあの、氷ってやつ。とてもおいしかったです」


 俺が魔法で落とした雹は砕いて、その場にいた獣人たちに振舞った。


 予想通り、氷は獣人たちに大人気だった。


「トールはこの国で、氷を作って売ってれば一生安泰だニャ」


「そうかな。それもありだけど」


 まずは魔族を全部倒して、平和を確保してからだな。



「そろそろ俺も会話に混ざってもよろしいですか?」


 ミーナの親衛隊長だったダズさんも、彼女に話したいことがたくさんあるようだ。


「もともとお転婆な性格でしたが、ミーナ様。いったい何をしていたんですか!」


「う、うぅ…。ごめんニャ。だって、ここにいたら王様にされそうだったから、怖くなっちゃったんだニャ」


 それでこの国から逃げたってことか。


「まぁ、それはもういいです。でも獣人王陛下に求愛されても無視していたあなたが、人族とつがいになると言われた時は驚きました」


 へ、へぇ……。

 あの獣人王が、ミーナを。


「だってレオル、ウチより弱いからニャー。それに何年も弟子として鍛えてきたから、あんなのとつがいになる気は全くなかったニャ」


 本人がいない所でボロクソ言われて、獣人王様がちょっとかわいそうになった。

 

「歴代最強って言われている王様を倒せちゃうミーナ隊長が強すぎるんですよ」


「でもウチよりトールの方がもっと強いニャ」


「直接戦ったことないから、ほんとはどうか分からないけどね」


「魔人倒しちゃうから、絶対にトールのが強いニャ!」


 ミーナの発言を聞いて、ダズさんとケイルさんがすごい勢いで俺を見てきた。


「ま、魔人を倒せるのですか!?」

「そんな御方と、俺は戦おうなんて……」


 ダズさんと決闘したおかげで多くの獣人にミーナとの結婚を認めてもらえたんだから、俺はあの場で戦うって選択をして良かったと思っている。

 

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