第61話 迎撃準備
俺たちはララノアの紹介ということで、ミスティナス王都に入るための検問をすんなり通ることができた。防壁守備部隊隊長の妹さん、流石ですね。
「トールさん、ミーナさん。ようこそ、ミスティナスへ!」
先行していたララノアが振り返り、元気よく俺たちを歓迎してくれた。
「とりあえず王都の中に入りましたが、どこか行きたい場所はありますか? 特に希望がなければ、私のお家に案内します」
「地下水脈に入りたいんだけど、ララノアは案内できる?」
「ち、地下水脈ですか? えっと……。実はその存在、エルフの中でもごく限られた人数しかしらないんです。なんでトールさんが知ってるんですか?」
巨大な世界樹の生命を維持する貴重な水源。王族や水脈を守護する一部の兵士以外には存在を秘匿されているという。
「世界樹に教えてもらった」
『私が教えました。トールさんたちなら大丈夫ですので、案内してください』
「そ、そうでしたか。承知しました」
世界樹は念話の範囲を調整できるようで、今は俺とミーナ、ララノアにしか世界樹の声が聞こえないようになっている。周囲にいるエルフたちに世界樹の念話が聞こえたら、大騒ぎになるらしい。
「トールさん。こちらです」
「はーい、よろしくね。ところで、なんでララノアは地下水脈の場所を知ってるの? もしかして王族とか?」
気になったので聞いてみたら、彼女はわかりやすく身体を強張らせていた。
「お、王族じゃ、ないです。その親類ってとこですね。本当なら私にも地下水脈のことを知る権利はなかったんですが……。その、私って冒険心が強くって」
あぁ、なるほど。
そうだよね。
女の子ひとりで世界樹の森に出てきちゃうくらいだもんね。
「秘密の場所に入っちゃったと」
「…………はい」
『当時も王族の中ではそれなりの騒ぎになりました。ただ、彼女の姉、ラエルノアがこの国で最強の戦力であったこともあり、ララノアの件は不問にするよう私が』
「世界樹様。その節は誠にありがとうございました」
ラエルノアに余計な苦労をかけぬよう、世界樹がララノアを許すと言ってくれたようだ。
『当時から困った娘だと思っていましたが、彼女の冒険心が王都の外でトールさんと友好を結ぶ助けになったと思えば、あの時の判断は正しかったといえます』
そ、そうかな?
今はこうして仲良くなってるけど、彼女との出会いは少し複雑だった。
調子に乗って魔法を披露した結果、彼女の姉に勘違いされて襲われたし。
……でもまぁ、世界樹に助けてって言われてここに召喚される時、思い描いたのはララノアのことだった。世界樹とかミスティナスを守るって言うより、ララノアの故郷を守ろうって意志が大きかった気がする。
『そういうものなんです。国を守るという大きすぎて漠然とした目的より、たったひとりの女の子を守ろうと思った時の方が、ヒトの意志は強くなることがあります』
世界樹が俺の思考を読んで反応してきた。
「なるほどね」
「トールさん、世界樹様とふたりでお話しされてました?」
「なに話してたニャ? 気になるニャ」
「たいしたことじゃないよ」
ララノアを守るっていう意志でここまでやって来たとか言ったら、ミーナが拗ねそうだ。だから笑ってごまかすことにした。
──***──
ララノアの案内で地下水脈までやって来た。
彼女しか知らないルートで、世界樹のウロから入り地下まで降りてきたので、ここに来るための入口を守っているという兵士には遭遇していない。
「きれいだニャ……」
「うん」
地下水が流れる空間は、神秘的な光景が広がっていた。
光が差し込まない地下深くであるにも関わらず、松明など不要なほど明るい。
世界樹の根が岩盤を突き破り、あちこちに伸びている。その根がぼんやりと光っていたんだ。
その幻想的な光に照らされた地下水はとても澄んでいて美しく、ただ佇んでずっと見ていられるほどだった。
『この地下水脈の豊富な水量のおかげで、私は今ほど大きくなることができました。水脈に沿って私は根を伸ばしています。もう少し先には地底湖があり、そこが最大の水源です』
「地底湖にはどのくらい水がある?」
『トールさんがやろうと思っていることができるくらいには』
「良い情報だ。あとはそれが実現できるかどうかだね」
『地底湖の水に魔力を通すなんて、普通の人族では数千年かかっても不可能です』
「だけどやってみなきゃ。俺の存在を知っていても世界樹が燃やされる予知があったなら、世界樹が無理だと思っていることをやらなきゃ未来は変えられない」
いつ魔族が攻めてくるか分からない。
1か月後か、1週間後か。
もしくは明日か、今日にでも攻めてくるかもしれないんだ。
時間は無い。
すぐ取り掛からないと。
「あの、トールさんは何をするつもりなんですか?」
「ウチも聞いてないニャ」
そうか、ミーナにも言ってなかったな。
「地底湖の水をすべて、俺が魔法で操れる武器にする」
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