第58話 世界を守る


「暇だ……」


 ガロンヌさんとシャルロビさんに杖を作ってもらって1か月が経過した。


 しかし魔族が現れたという情報はなく、俺はこちらの世界の言葉で最強を意味する“ハザク”と名付けた杖を使う機会がなく過ごしていた。


「どっかに魔族出ねーかな」


 情報収集の手を広げているものの、魔族や勇者たちに関する情報は全くヒットしていない。


「たぶん、この世界で魔族の出現を心待ちにしてるのって、トールだけだニャ」


「だって暇なんだもん」


「この1か月の間に魔物の群れに襲われていた街や村を5つも救ってるのに、杖を使わないで魔物を全部倒しちゃうからニャ。使えば良いニャ。ていうか使えニャ。なんで魔物100体の群れを杖なしの水魔法で殲滅しちゃうかニャ」


 そう、それなりに活動はしている。


 魔族が復活し始めているというのは確かなようで、各地で魔物の発生が激しくなっていた。魔族が魔物たちを率いているんじゃないかって考えて、街などが魔物に襲われたと聞けば大急ぎで駆け付けて魔物を倒していた。


「ハザクのおかげで移動は楽になったよね」


「最近のトール、普通に空飛んじゃうからヤバいニャ」


 水魔法で水を宙に浮かせられるんだ。その水を一部凍らせることもできる。俺はその氷に乗ってるだけ。飛行魔法が使えるわけじゃない。


 でもこの方法で空を飛べるようになり、馬で1週間かかる距離にある街まで1時間で移動し、被害が大きくなる前に対処できている。各地に配置した“連絡係”も成果を出していた。


 人族の王国であるガレアスとザハル、ソラスの主要な街には、自警団や冒険者たちで対処できないような脅威が迫った時、俺にその情報を伝えるための連絡係を置いている。異常が起きた時、狼煙を上げてもらうようにしたんだ。その狼煙を見た最寄りの街や村にいる連絡係が、更にそれを拡散する。


 そうすることで俺がどこにいても情報が伝わってくる。異常が起きた場所は狼煙の区切り方で判断する。例えば狼煙が長く1回上がったあと、短く4回上がるのが繰り返されたら、ガレアスのコロッセオがある街が危険であることを示している。


 各地の主要都市まで行けば、より詳細な情報が得られるようにしていた。


「遠く離れた場所での危機を察知して、高速で向かって対処するとか、もはや歴代最強って言われてた賢者様クラスのことやってるニャ」


「昔の賢者ってそんな感じだったんだ。異常はどうやって知ってたんだろう? 通信魔法とかあればいいんだけど」


 生憎そんな都合の良い魔法は無かった。唯一あるのは世界樹からの念話。エルフの王国ミスティナスで発生した危機は世界樹から情報が入る。しかも世界樹は俺たちを召喚できるので、移動に時間がかからないという点も素晴らしい。


 最近は世界樹からの連絡がないけど。


 平和ってことなのかな。

 まぁ、それが一番だ。


 魔族と戦いたいってのは変わらないけど。



『トールさん! 助けてください!!』


 平和が一番って思ってた時、世界樹から念話が飛んできた。


「どうしたの!? 魔族が攻めてきた!?」


 来たんですか!?

 来たんですね!!


「なんでちょっと嬉しそうにしてるのかニャ。普通はもっと、こう……。あー、もういいニャ。なんでもないニャ」


『あ、あの。すみません。今、魔族に攻めれれているとかではなくてですね。その、予知があったんです』


「予知?」


『えぇ。私の能力のひとつに、この世界の未来に関する予知ができるというものがあります。数日、もしくは数週間以内に、私が燃やされる可能性を予知しました』


 便利な能力だな。


「前回、雷の魔族が攻めてきた時は?」


『私が燃やされる未来はなかったのでしょう。予知はありませんでした。そもそも意図して見えるモノではないのです。この世界が危機に陥りそうになった時、ぼんやりと未来が見えるのです』


「世界樹が燃やされると、世界の危機に繋がるんだ」


『私は負のオーラを浄化し、この世界の正常を維持しています。もし私がなくなれば、100年に13体の発生に留めている魔族の数が増えてしまう可能性があります』


「1体でも国が滅亡するのに、それが増えるなんてヤバすぎるニャ」


「うん。それは阻止しないと」


 魔族と早く戦いたいから、俺としては増えてくれても構わない。でも俺がその魔族の出現場所に運よく出くわさなければ、傷付く人々が出てしまう。


「俺らがミスティナスにいて、世界樹を守ればいい? 攻めてくるって分かってるなら、事前に迎撃の準備もできるだろうし」


『私を、世界を守っていただけますか? 私がトールさんの存在を知っている状態で見た予知なのです。もしかしたらトールさんがいても、私が燃やされるという状況になるかもしれません』


 なるほど。つまりかなりヤバい状況になる可能性があるってことか。


 もしかしたら、複数体の魔族が攻めてくるとかなのかも。


 そういう想定をして対策を練ろう。世界樹が燃やされるってことは、火を使う魔族が来る可能性が高い。対して俺は水魔法使いだ。


 雷魔法を使う魔族を倒した。

 水魔法を使う魔族を倒した。


 そして俺は、最強の杖ハザクを手に入れている。


 世界最強の水魔法使いになった自負がある。


 その俺が入念に準備をして敵を迎え撃つんだ。


 大丈夫。

 きっとなんとかなるさ。


「ミーナ。良いよね?」

「はいニャ!」


 いつものように彼女はすぐ了承してくれた。



「世界樹、俺たちを召喚して。世界を守りに行くよ」

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