第57話 勇者パーティー(3/3)
「や、止めてください! 俺たちは大丈夫ですから」
アカリとシオリを守るように、ケンゴが前に出る。
「はぁ? 俺たちは親切で言ってやってんだ。お前らみたいなガキが4人だけで何ができるってんだ。このまま街を出たら、ワーウルフの群れにやられるのが目に見えてるからな」
「これから冒険者でやってくんだろ? じゃあ魔物に勝てるくらい強くなれるよう、俺らがシゴいてやるよ」
「女の子らにはシゴいてもらうかもしれねーけどな。くひひひっ」
ケンゴたちに絡んでいるのはこの街で最上位クラスの冒険者3人。非常に素行が悪いものの、彼ら以上の実力者がいないためギルドは彼らの非行を黙認しているのが実情だった。
女神はまだこの世界に慣れていない勇者たちを、比較的治安の良い地域に送り込むようにしていた。出現する魔物もそれほど強くなく、戦争が起きにくいので負の感情が高まった場所に現れやすい魔族とも無縁。ここはそんな地域だ。
魔物が弱いので、強い冒険者がやってくることもほとんどない。実力に見合わない魔物を狩るのは金にならないからだ。
しかしその治安の良さを逆手に取り、金稼ぎより自由に遊べることを重視した冒険者たちがこの地にやって来てしまった。
ケンゴたちはそんな奴らに目を付けられたのだ。
「とりあえず男ふたりはこっちに来い。その綺麗な顔、冒険者らしくねーからボッコボコにしてやるよ」
「君らはこっちね。俺の魔法の杖を見せてあげる」
魔法使いらしき冒険者がアカリの肩に手を伸ばす。
「やめろって言ってんだろ!」
ケンゴがその手を弾いた。
「ってーな!」
「おっ、やんのか?」
「先に手を出したのはお前だ」
後悔するなよ、と言い放った男の顔は悪意で満ちていた。
大人しく従うならそれで良し。もし反発されても、先に手を出してきたのは新人だと主張することができる。生意気な新人に礼儀を教えてやったのだと、この冒険者たちは指導と称して新人をリンチすることもあると噂されていた。
3人組のリーダーが、脅しのために腰の剣を抜く。
抵抗しなければ仲間を守れない。
ケンゴはそう判断した。
「レン。こいつらのステータスは?」
「任せろ、今見てる」
レンは自分や他人の実力を数値化し、保有スキルも同時に見ることができるアクティブスキルを女神から貰っていた。
それにより、冒険者たちの実力が露わになる。
ガジルド (戦士)
物理攻撃力:152
物理防御力:51
魔法攻撃力:18
魔法防御力;10
装備
・ダマスカス鋼の剣(攻+20)
・黒鉄鋼の鎧(防+10)
ジョブスキル
・物理攻撃強化(攻+10)
マシンバ (弓士)
物理攻撃力:108
物理防御力:15
魔法攻撃力:30
魔法防御力;20
装備
・古鬼樹の弓(攻+15)
・黒鉄鋼の軽鎧(防+7)
ジョブスキル
・遠視(範囲:中)
ダーナ (魔法使い)
物理攻撃力:8
物理防御力:7
魔法攻撃力:121
魔法防御力;89
装備
・ガデュモスの杖(魔攻+30)
・魔導士のローブ(魔攻+10)
ジョブスキル
・火魔法
「……大丈夫。全員、ケンゴの十分の一以下だ」
「そう。りょーかい!」
彼らは独自ルールで、ステータスが自身らの7割以上ある敵と戦わないことにしていた。マージンを取って、勝てる敵とだけ戦うようにしていたのだ。
「ステータスだぁ?」
「なに訳の分から──」
言葉の途中で弓士マシンバが吹っ飛んで行った。
ケンゴが軽く彼の肩を押したのだ。
ギルドの壁に激突した彼は、床に倒れてピクピク痙攣している。
「つ、強すぎた?」
「いや。生きてるよ」
「テメーら! 何しやがった!?」
レンのスキル“ステータス確認”では、物理攻撃力に攻撃速度なども含まれ、総合的な力として数値が算出される。
このスキルの数値からすれば、ステータス上のどこかひとつでも100を超えていれば一流の冒険者とされる。ゴールド級冒険者になるための閾値が、およそそのくらいであった。
それに対し、勇者ケンゴは──
ケンゴ (勇者)
物理攻撃力:3235
物理防御力:2307
魔法攻撃力:2640
魔法防御力;2139
装備
・聖剣(攻+300 魔攻+200)
・聖鎧(防+300 魔防+200)
・女神の首飾り
アクティブスキル
・体力自動回復(大)
・防御力強化(大)
・
ジョブスキル
・全ステータス強化
・魔を祓う者
・言語理解
こんなステータスだった。
一般人からすればまさしくバケモノ級といえる。
世界の不具合で発生する魔族を、世界の管理者である女神は自身の手で消滅させることができない。そこで異世界から勇者を召喚して倒してもらう。その際、彼らに強くなってもらう必要などない。
初めから最強のステータス。
最強の装備を渡せば良い。
その結果、勇者とパーティーメンバーは何人にも負けることはない状態でこの世界にやってくることになる。
「ちょ、調子にのるなよ!
魔法使いダーナが火魔法を放つが、ケンゴは避けることもしなかった。避ければ仲間の方に魔法が飛んでいくから、自身が受けることにしたのだ。
「どうだ! 直撃!! これなら……っ!? な、なんで!?」
ダーナは目を疑った。
魔法が直撃したにも関わらず、ケンゴは無傷だった。彼が纏う聖鎧は目立たないよう、駆け出し冒険者が身に着けるようなライトアーマーに擬態されている。
聖鎧の防御力だけでもダーナの魔法攻撃は十分耐えることが可能だが、ケンゴ自身の魔法防御力は更にその10倍以上。
つまり、装備の補正込みで魔法攻撃力が150程度のダーナがいくら攻撃しようとも、ケンゴがダメージを受けることは絶対にない。
「建物の中で魔法使うとか、危ないだろ!」
ケンゴは離れた場所からダーナに向かって拳を突き出した。その拳圧で彼は吹き飛ばされる。直撃したら物理防御力が低い魔法使いなど簡単に死なせてしまうので、可能な限り手加減した結果だ。
「お、おい! お前ら!! くっ、ふざけんな!!」
剣を振りかぶり、ガジルドがケンゴに襲い掛かる。
ゴールド級冒険者になって5年。それ以上の成長を望めず、彼はミスリル級冒険者になることを諦めてこの地にやって来た。
新人冒険者をターゲットに暴虐を尽くし、やりたいようにやって来たガジルド。そんな彼に罪を清算する時がやって来た。
「ケンゴ。そいつは頑丈そうだから強めで良いぞ」
「りょーかい!」
ガジルドの剣にケンゴが拳を当てた。
既に見えるが、彼の拳にも不可視の聖鎧が装着されている。防御力300を誇る聖鎧は、ガジルドが大金と貴重な素材を費やして手に入れたダマスカス鋼の剣を容易くへし折った。
「んなっ!? 俺の剣を、こ、拳で!?」
唖然とする彼の前に、拳を引いて構えるケンゴがいた。
「もう、俺たちに絡むな」
ケンゴはガジルドが反応できない速度で接近し、その腹に拳を叩き込む──直前で寸止めした。そのまま打ち込んだら、殺してしまう気がしたからだ。
その直感は正しかった。
当たっていないにも関わらず、ガジルドの鎧は粉々に砕けて彼は吹き飛ばされた。そのままギルドの壁を突き破って外まで行ってしまった。
「おい、レン! 強めでやってたら、ヤバかったぞ!!」
「ごめん。でも、ナイス手加減!」
良い笑顔でグッドサインを見せる賢者。
そんな彼らを見て、この場にいた冒険者やギルド関係者たちは唖然としていた。
彼らがあまりにも新人冒険者っぽい恰好をしているので、勇者パーティーであることはバレなかった。しかし、見た目にそぐわない異常な力を持った新人冒険者4人がいるという噂は、この時からたちまち広がっていくことになる。
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