第2話
「えーっと…つまり?俺達の下半身が入れ替わったことで、加護も本来受けるものとは逆になったと?」
「ええ。そういうことになりますね」
俺達は、どこから出したのか女神に渡された座布団に座っていた。女神は、暢気に茶を飲みながら「やはり、冬は緑茶に限りますねぇ」などと吐かしている。
女神が言うには、トラックに轢かれた俺達の肉体はぐちゃぐちゃのミンチになり、魂も同じ様にミンチになったらしい。特に、下半身は合挽きハンバーグのような有り様で、どうにか魂を二人分に分けて成型し直したのだが、その過程で下半身が入れ替わった状態になってしまったということだ。
「いやおかしいだろぉぉぉおおお!!??なんかおかしいなって、誰か思わなかったんか!!??」
女神に見られているという構図を視界に入れたくなくて、ズボンを下ろされたときには全く気付かなかったが、俺の股間からは息子がサヨウナラをして可愛らしい姿へと変貌していた。あまり、はっきり見なかったけど。初めて見た。鼻血出るかと思った。出てた。
ちらりと、あの子の股間を盗み見る。俺の元息子が、スカートを押し上げている。勃起である。俺の息子あんなにデカかったっけ。
「まあ、原因が分かったんなら、早くもとに戻してくれよ。股間が寂しい」
「無理です」
「「えっ??」」
顔を真っ赤にして黙っていたあの子と、声が重なる。潤んだ目が股間にクる。いや、もう息子はないんだった。違う、そうじゃない。
「むり…?」
「はい。既に癒着してしまっているので。もう一度魂をミンチにして成型し直すとしても魂が耐えられるかどうか。最悪、魂が消滅します」
「と、いうことは…?」
「一生そのままです」
「はぁぁぁああああ!!!!???」
あまりのことに、女神の胸倉を掴んでガクガクと揺らす。女神は、機械のように表情一つ変えずに揺らされていた。
「戻せ!戻せよぉ!!俺の息子を返してくれよ!!向こうさんだって突然のタワー建築だぞ!!!!!??法律上問題はないんですか!!!???」
「彼女は、嬉しそうですが?」
「はぁ!?そんなわけっ…」
俺は、振り返ってあの子を見る。そこでは、あの子がガッツポーズをして天を仰いでいた。え?
「シャォラァッ!!!!夢に見た【自主規制】が手に入ったぞぉ!!!!これで生理痛ともオサラバじゃ、ぶわははははははははっ!!!!!!!」
「え」
……………誰?
世紀末の覇者の様な、ゲームのラスボスの様な笑い方をするあの子。人格変わった?
「わたしだって、マシュマロみたいなおっぱいに埋まりたいし、女の子とあんなことやこんなことしてみたいし、なんだったら男だって抱いてみたかった…それが、叶う時が来たなんて!!!!ありがとう、女神様!!!!!!」
「よいのです。崇めなさい」
「ははぁ〜〜〜!!!!」
あの子が、クソ女神教に入信してしまった。もう、あの子が何を言っているのか全然分からない。なんて?
「えっと…?」
「ああ、そうだ。同じ会社の人ですよね。貴方にも感謝しなきゃ。素敵な息子さんをありがとう。もう、私の息子だけど」
「俺の息子が寝取られたっ!!!!」
感謝されたのに全然嬉しくないや!!
「しかし、困りましたね。今、貴方達は魂だけの存在です。なので、異世界で生まれた新しい命へと宿す予定だったのですが…魂の形が歪だと、ちゃんと生きれるかどうか…」
「深刻な問題じゃねぇか。どうすんですか。時を巻き戻すとか出来ないんですか」
「時を巻き戻すと、最高神に気取られる恐れがありますので、無理ですね」
気取られちゃ不味いのか。確かに、失態なのかもしれんが。
「致し方ありません。貴方達の肉体は、私が創り上げるとして…人間を無から生成することで生じる可能性のある歪みは、他者の記憶を弄って、存在を捩じ込む事で補填することにしましょう」
「やってることが完全に邪神のそれなんだよなぁ!!!!」
やっぱりヤベェよこの女神。
生き返れるのは嬉しいし、異世界という存在に心が踊らないわけではない。だが、どことなく感じる嫌な予感が止まらず、俺は冷や汗を流した。
かぱりっ、と。女神が、目と、口を開く。そこは、黒く、暗く。闇が、こちらを見ているような。そう、死ぬ前に見た、闇が。
俺を、見ていた。
「精々、愉しませてくださいな」
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