#14『寄り道』
「……ところでさ」
「ん……?」
「陵華が教室から出てくる前に、六花ちゃんが凄い勢いで飛び出して走っていったんだけど、なんかあったのかな?」
六花のこと、瑞季も見てたのか。
実は瑞季は、六花と面識がある。
中等部2年の時、私と瑞季と六花の3人は、同じクラスだったのだ。
その後3年になったタイミングでクラス替えがあったため、六花とは一緒のクラスになれたが、瑞季とは離れ離れになってしまった。
私と瑞季は初等部から中等部の2年生までずっと同じクラスだったから、それが初めての出来事だった。
あの時は結構ガッカリしたものだが……気付けばあれからもう1年か。意外と早かったな。
そういう訳で瑞季も六花の性格を知っているため、疑問には思ったものの、何となく察しは付いているようでもあった。
私は答えた。
「……まあ、十中八九バスケのことでしょうね」
「だよね……」
「内部進学組とスポーツ推薦組の交流試合があるって言ってたから、それで張り切ってるんじゃないかしら」
「へえ、交流試合……?」
首を傾げている瑞季に、私は先ほどの六花から聞いた話を伝えた。
再来月にバスケ部の内部進学組とスポーツ推薦組で交流試合があること。
六花としてはどうしてもその試合に勝ちたいということ。
そして、私が六花から助っ人として参加してほしいと頼まれたこと。
すると最初は黙って聞いていた瑞季だったが、次第に表情が曇ってゆくのが見てとれた。
「……それで、陵華はオッケーしちゃったの?」
「ま、まあ……」
……ほとんど拒否権は無かったが。
「……いつも言ってるじゃん。陵華は優しいから頼みごとされたら断れないけど、それって陵華自身のことを蔑ろにしてないかって……」
「それは……」
まあ、確かに……瑞季の言いたいことも分からなくはない。
事実、私はこの断れない性格によって、学内でなかなか面倒な立場に立たされていた。
「……でも、別に瑞季が心配することじゃないんじゃない?」
「心配するよ……! 陵華、いつも忙しそうだし……それに、私も陵華と一緒にいる時間減っちゃったし……」
……なるほど。
なんとなく分かった。
つまり瑞季は、私と遊ぶ時間が減って、やきもちを焼いているのだ。
私は、瑞季の身体を引っ張って抱き寄せ、そして彼女の頭を撫でた。
「寂しかったんだね……よしよし」
「……もう、すぐそうやって誤魔化す……」
「今日はずっと瑞季に付き合うから……機嫌直して?」
「まったく仕方ないな、陵華は……」
私があやしたことで、瑞季はすっかりおとなしくなっていた。
昔から扱いやすくて助かるな、瑞季は。
まあ……そこが可愛いのだが。
◇◇◇
2人で例のパフェが美味しいという喫茶店に入り、適当な空いている席に腰掛ける。
結構な穴場らしく、私たちの他に女子はいなかった。
「……良い雰囲気のお店だね」
「でしょ? クラスの子に教えてもらってさ。私もずっと行ってみたかったんだ」
お店のマスターが注文をとりにこちらに来て、私たちは噂のパフェをそれぞれ1つずつ注文した。
パフェが来るまでのあいだ、私たちは取り留めのない雑談に花を咲かせた。
最近こんなことがあったとか、誰が誰を好きらしいとか……そんな、なんてことない話だ。
そんななか、次第に話題は高等部進学についてになる。
「あー、2ヶ月後にはとうとう高校生かー。なんか実感湧かないなー」
瑞季は嬉しいような、そうでもないような、微妙な表情でそう言った。
「しょうがないよ。だって私も瑞季も、今の3年生ほとんどがそのまま高等部に進学するんだし」
私たちの通っている星琳学園には初等部、中等部、高等部があり……ほとんどの生徒はそのままエスカレーター式に進学してゆく。だから同級生の顔ぶれもあまり変わらないし、進学したという実感が湧きにくいのだ。
もちろん中等部、高等部で入学してくる人間もいるが、エスカレーター組と比べて少数派だ。だから、校内では圧倒的にエスカレーター組の声の方が大きかった。
「ね、陵華」
「んー……?」
「高等部に上がったら受験組が合流する訳じゃん」
「んー」
「どんな子たちだろうね?」
「……んー、あんまり……興味ないかな……」
「ええ? なんで?」
なんでって、そりゃ……。
「誰が入学してきたって、私は私だから」
確かに気が合う合わないはあるかもしれないが……それが私の生活に影響をもたらすことは多分ないだろう。
私は、私の信ずるままに生きていけば良いだけだ。
「ええー? つまんないなあ」
「つまんない?」
「だって、もしかしたらカッコいい男子とか入学してくるかもしれないじゃん。陵華は……彼氏が欲しいとか、そういうのないの?」
「彼氏、ね……」
正直、考えたことがない。
というかそもそも、異性が好きとか、そういう感情自体がないのだ。
それはもしかしたら、私の前世が男だったからとか、そういうのも関係しているのかもしれない。
かつて男だったから、男に興味を抱かないのかも。
しかし、だからといって女が好きとか、別にそういう訳でもない。男に対しても、女に対しても、常に感情がフラットなのだ。
そういう意味では、私はまだ……瑞季と出会ったあの頃から、何も成長していなかった。
「……別に、いらないかな」
私がそう答えると、瑞季は知っていたとでも言いたげに深いため息をついた。
「だよねえ……。そうじゃなきゃ、あんな意味分かんないことしないもん」
「意味分かんないこと?」
「ほら、あの校内放送での大宣言」
その言葉で、瑞季が何を言っているのかようやく分かった。
「いや、あれは……別に言いたくて言った訳じゃなくて――」
私がそれを弁明しようとした時――瑞季の視線が、私ではなく、窓の外へと逸れた。
「――……瑞季?」
「まただ……」
また?
「またって何が……?」
私がそう尋ねると、瑞季は嫌悪感を露わにしながら、私にこう言ったのだった。
「実は私、最近ストーカーされてるんだよね……――」
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