幕間

Interlude

 星琳学園――その高等部の校舎前に人だかりができていた。

 掲示板に貼られた、大きな一枚の紙。そこに、ズラリと5桁の番号が並んでいる。


 ――受験番号だ。


 この人だかりは、星琳学園を受験した受験生たちのものだった。

 その番号を見てある者は歓喜し、またある者は涙を飲む。

 その中で……同じように掲示板を眺める1人の少年がいた。


 少年は張り出された番号と自分の受験票の番号を交互に見比べ……やがて、誰にも分からないような小さくガッツポーズをした。

 

 ――よし。

 これで俺は、4月から――。


 少年は高鳴る胸の鼓動を抑えつつ人だかりから抜け出し、帰路へと着いた。


 彼の家は、電車でふたつほど乗り換えた先にあった。

 彼が4月から星琳学園に通うことになるのであれば、おそらくこのルートを毎日往復することになるのだろう。

 決して近いとは言えない距離だったが、彼にとってはそれほど苦ではなかった。

 なぜなら、この星琳学園に通うことは……彼にとっての長年の望みだったからだ。


 少年が自宅に戻ると、ある人物が玄関で彼のことを出迎えた。


「――おかえり、お兄ちゃん」


 それは、少年の妹だった。

 

「結果はどうだった……って、聞くまでもないか」


 少年の妹は半ば呆れたようにそう言った。少年の表情から、結果が丸わかりだったからだ。


「……おめでとう、お兄ちゃん」


「おう、ありがとう」


「そんなに嬉しいんだ?」


「ああ……なんせ、ずいぶんと待たせたからな」


「そっか……」


 素っ気なく呟く彼女。だが実際は、自分のことのように嬉しかった。


「……また会えるんだね、あの子に」


「ああ……そうだな」


「会ったら、私のぶんもよろしく言っといてね?」


「もちろん分かってるって」


「うん……」


「……緊張しっぱなしで少し疲れたから、少し休む」


「ちょっと! これからみんなで、お兄ちゃんの合格祝いやるんだけど!?」


「そっか、なら準備できたら呼んでくれ」


 少年は、文句を言ってくる妹を背に、足早に自室へと向かう。

 そして自室でベッドに寝転びながら、まだ見ぬ学園生活のことを想像した。


「陵華……もうすぐ行くぞ、お前のところに」

 

 少年は、ある人物の名前を呟いた。

 それは……かつて少年と親しかった女の子の名前だ。


 少年は、その女の子とある約束をした。

 それは所詮、ただの口約束でしかなかったが……少年はその約束を、一度たりとも忘れたことはなかった。


 ――あいつとの約束を果たしに行く。


 少年はそう誓いながら……やがて徐々にまどろみの中へと、意識を飲み込まれてゆくのだった。

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