たかしとおじいちゃん
壱六
前編 おじいちゃんとぼく
今日おじいちゃんが死んじゃった。
ぼくはむかしからおじいちゃんといっぱい遊んで、お母さんよりもお父さんよりもお姉ちゃんよりもずっとずっとおじいちゃんが好きだった。おじいちゃんもよくぼくの頭を撫でて褒めてくれた。
「たかしはえらいなあ」
って。
そのおじいちゃんはぼくがきれいなかっこいいオトナになる前に、お空に行っちゃった。いっぱい頑張ってかっこよくなるところ、おじいちゃんに見せてあげたかったなぁ……。
お母さんはおじいちゃんはぼくのことをお空から見てるって言ってた。いっぱいいっぱい泣きながら、教えてくれた。
でも、それはウソだった。お母さんはぼくにウソをダメだって言ってたのに、ウソをついた。
だって、おじいちゃんはぼくの隣にいるんだもん。
「たかし、おはよう」
ぼくが起きると、おじいちゃんはぼくにおはようと言ってくれる。そして、ぼくの頭を撫でてくれるんだ。すごいぞって。だから、ぼくはいつも頑張れるんだ。
「たかし、ただいま」
「……おじいちゃん?」
おじいちゃんがぼくのところに来てくれたのは、死んじゃった次の日。起きたら、ぼくの枕のそばにいた。少し体が透けてて、おじいちゃんは幽霊になったみたいだった。
「お姉ちゃん! おじいちゃんが帰ってきたよ!」
「……たかし、やめて」
おじいちゃんが帰ってきたのに、お姉ちゃんは何だか怒ってる。不思議。お姉ちゃんは確かにいつも怒ってるけど、今は何だかいつもと違う。隣のおじいちゃんも不思議な顔をしてた。やっぱり、おじいちゃんはぼくにしか見えてなくて、悔しいのかな?
「何で何だろうね?」
「不思議じゃのお」
「公園行ってくるね!」
お化けになって帰ってきてくれたおじいちゃんと遊びたくって、公園に行くことにした。お母さんはおじいちゃんのお葬式で忙しいみたい。お父さんもお仕事でいない。今は外国に行ってるらしい。お姉ちゃんはお部屋にずーっといるみたい。しかたないから、僕はお気に入りのサッカーボールを持っておじいちゃんと公園に行った。
「行ってきま〜す!」
「行ってくる」
途中でマキバのおじちゃんにあった。おじちゃんはちっちゃなお店の人でいつもタバコを吸ってる。健康に悪いって言ってもなかなかやめてくれない。
「おじちゃん! こんにちは!」
「……たかしくん」
「聞いて! おじいちゃんがお化けになって帰ってきたんだ!」
「……そうか、俺は霊感とかないから見えないな」
「今から公園行くんだ! マキバのおじちゃんも一緒にどう!?」
いっつも行こうって言ってるのに、おじちゃんは絶対一緒に行ってくれない。おじちゃんはケチだ。
「……行くか」
でも、今日は初めて一緒に行ってくれることになった!
「やったあ!」
「良かったのお。たかし」
「うん!」
今日はとってもいい日だ。
「行くよ〜!」
「おう、来い」
「こっちもいいぞ〜!」
おじいちゃんとおじちゃんと3人でキャッチボールだ。
「えーい!」
おじいちゃんの方に投げる。でも、そのボールをおじいちゃんはキャッチできなかった。
「ん?」
「あれ?」
僕が首を傾げていると、おじちゃんが教えてくれた。
「……お化けだから掴めないのかもな」
「なるほど〜」
「そうじゃったのか〜」
おじいちゃんは残念そうに僕の後ろにきた。
「おじいちゃんはみててね」
「わかったぞ」
結局、僕はマキバのおじちゃんと二人でキャッチボールをした。
「おじちゃん、楽しかったね~!」
「だな」
もうすっかり夕方になって、お母さんに怒られるまえに家に帰らないといけない時間になった。
「あ、見て!」
歩いていると、工事現場を見つけた。
「すご~い!」
大きなクレーン車やダンプカーが走っていて、迫力があった。
「すごいね! おじちゃん! おじいちゃん!」
「……ああ」
「そうじゃのう」
おじちゃんはあんまり重機が好きじゃないのかも。あんまり嬉しそうな顔じゃない。
「……あんまり遅いと、お母さんに怒られるぞ」
「あ! そうだった! おじちゃん、またね~! おじいちゃん、急ご!」
「そうじゃの。走ろうか」
そこで僕はおじちゃんと別れて、おじいちゃんと帰った。
「ただいま~!」
「ただいま」
ガラガラと家の扉を開けた。
「あら、たかし。お帰り」
家に帰ると、おかあさんはカレーを作っていた。僕の大好物だ。
「わ~! おいしそ~!」
「もうちょっとだから待っててね」
「は~い!」
僕は部屋に帰って、『たかしの日記帳』を開いて、日記を書いた。
「これは?」
「おじいちゃん、これはね日記だよ」
これを毎日書くといいって昔マキバのおじちゃんが言っていたような気がする。
「いただきま〜す!」
日記を書いて、みんなでカレーを食べた。
「おいし〜!」
「よかったわ。」
「よかったのお。たかし。」
お姉ちゃんは静かだけど、お母さんは僕といっぱい話してくれる。
今日は幸せな1日だった。
「あれ? 今日もカレー?」
「そうよ。たかし好きでしょう?」
「うん!」
それからしばらくカレーの日が続いた。だけど僕はカレーが大好きだったから別によかった。
「おいし〜!」
「……私はこれぐらいでいい。」
ある日、お姉ちゃんがカレーを残した。
「どうしたんだろ?」
「心配じゃのお。」
その日はもうお姉ちゃんと一度も会わなかった。部屋に篭っちゃったみたい。
「う〜ん、どうしようかな?」
しばらくして、ついに学校に行く日が来た。だけど、行くのは本当は面倒くさい。遠いし、暑い。
「どうしようかな?」
「わしはたかしが好きな方を選べばいいと思うぞ。」
僕はう〜んと悩んだ。
「だったら……学校休む! お母さんに言ってくるね!」
「おお、行ってらっしゃい。」
そうして、僕は学校を休んだ。
「あれ? 今日はお姉ちゃんがご飯を作るの?」
「うん。」
夕方になると、久しぶりにお姉ちゃんがご飯を作っている。慣れていないせいで、レシピの本をパラパラ読みながら作っている。
「どう?」
「まあまあかな。」
「私は美味しいと思うわよ。」
作った料理はパスタ。少し麺が硬かったが、まあまあ美味しかった。
「これからは私が夕飯作るね。」
そうして、お姉ちゃんは夕飯を作り続けた。僕の好きなカレーからカレイの煮付け、唐揚げ、タコスなんてのも作ってた。
味は濃いのが多かったが、僕はそれが好きだった。
「お姉さんは頑張り屋じゃのお。」
「だね。」
「……あれ?」
ある日、おじいちゃんがいなくなった。どこにもいない。
「姉ちゃん、おじいちゃんが……」
「……そう。きっともう忘れて頑張れってことじゃない?」
「きっとそんなんじゃないよ!」
「それじゃあ何でいなくなったのよ!」
「わかんないよ!」
僕は泣きながら、部屋に帰った。
「どうしたら……」
僕に一つアイデアが浮かんだ。
「僕が会いに行けばいいんだ。」
思い立ったが吉日。僕は日記を書き込んで、押入れかロープを持ってきた。なかなか見つからなくて大変だった。
ロープを輪っかにして天井にかけた。
「おじいちゃん、今行くね。」
僕の意識はそこで途切れた。
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