今日世界で一番好きな人に告ります。



しばらく歩いた。足早に歩いているせいで彼女の顔が見えない。

怒っているだろうか…。

人の往来が無くなるところまで出て、再び立ち止まる。


「…まったく、あんなに人がいっぱいいる中で、

 あんなバカなこと言い出すなんて思わなかった。」


「いやー、それほどでも。」


「褒めてないわよ!」


「あれ?」


「………。」


少しの間また沈黙が生まれる。彼女は意識的におれから目線を反らし、

おれが何か言うのを待っているように見えた。

それなら、全力でおれの気持ちを伝えるしかない。

うつむいた彼女の顔を真剣に見つめる。


「…本気です。」


チラッとこっちを見て、また彼女は視線を外す。


「さっき言ったこと、全部本気なんです。」


「…うん。」


まだ、こっちを見てくれない。


「いつもと逆ですね。」


「…何が?」


「…いつも先輩は僕の目を真っすぐ見てくれていました。それはまあ、おれにとってめっちゃ恥ずかしかったんですけど…でも嬉しかったんです。自分のことをちゃんと見ていてくれている気がして…」

 

「………。」


「……おれは愛想が良くないから、友達があんまりできなくて…でもやっぱり友達は

 欲しかったからサークルに入ろうと思って…でも自分から行く勇気も出なくて……

 覚えてますか?先輩がおれを誘ってくれたんですよ?」


「………。」


「…初めて会った時から笑顔で、感じの悪いおれなんかの目をちゃんと見て話しかけ

 てくれて…きっと心があったかい人なんだろうなって思いました。

 先輩は憶えてないでしょうけど、おれは多分ずっと忘れません。

 勘違いですけど、おれのことをちゃんと見てくれてるんだって勝手に思って…

 気づいたら目で追うようになって、先輩の姿を追いかけてるうちにいつの間にか

 好きになっていました。

 …なんかストーカーみたいで気持ち悪いですね。」


大きく息を吸い込んだ後、わざとらしく「ふぅーっ。」と息を吐く。


「先輩みたいな真っすぐな人になりたい。

 だから、もう横顔をみてるだけじゃ駄目なんです。

 真正面から先輩の目を見て堂々と話したい、どんなことでも話したい。

 …だから先輩おれを見てください。今度は目をそらしませんから。」


 顔が赤くなろうが、恥ずかしかろうがてどうだっていい。

 そんなこと既に頭の中から消え去っていた。


「…私そんな人間じゃないよ?」


「いいえ、おれは先輩より先輩のことを知ってます。なんせストーカーなんで。

 だからおれを信じてください、ついでに良ければおれのこと好きになってくださ

 い。」


わざとらしくニヤッと笑ってみせる。

視線を落としていた彼女が顔を上げおれの方を見る。

目に映る光が戻っているように見えた。


「はあーっ。」


と深く溜息をついた後、


「もう、けっこう好きだけどね。」


と、幻聴が聞こえた。


「……………………なんて?」


「だから、けっこう好きっていったの!」


頭が完全にショートして空想の世界にフライアウェイしてしまったのだろうか。


「すいません、ちょっと何言ってるか分かんないっす。」


「だから………好き!…って言ったの!」


脳を思いの限りフル稼働させ、今の言葉の意味を考える。その言葉を理解するまでに

精神と時の部屋で100年を過ごし、ようやく答えにたどり着いた。


「……………………………………………………………………………………マジ?」


「いや、どんだけ時間かかるの。」


「マジ?」


「あ、ちなみにLOVEかどうかまだ分かんないからね。」


「LOVEマシーン?」


「言ってないよ!まったくもう…」


若干照れているのか顔が赤い、照れてる先輩を始めてみた。

もう死んでもいいと思った。その姿を見ておれは正気を取り戻す。


「…先輩のこと、もっと知りたいです。」


「知ってどうするの?」


「脳内に永久保存します。」


「あはは、さすがストーカー。」


苦笑いした後いつもの彼女の表情に戻り、

ポツリポツリ、言葉をこぼすように話し始めた。


「……1日、ううん、たった数時間あれば気持ちってこんなに変わるんだね。

自分にびっくりしちゃったよ。本当に私って自分のこと良く分かってないんだね。」


「大丈夫です。先輩が素敵なことは変わりようがありませんから。」


ちらっとおれを見て少し笑った後、空に顔を移した。


「…実はさ、何となく君の気持ち分かってた。

 でもその気持ちには答えられないし………

 だから言わせないようにしてたっていうか、」


「断らなくて良いように?」


「うん。でもこんなことになるなんて思っても見なかった。」


「………。」


「ねえ……私の良いところってどこ?」


「全部です。」


おれは即答した。

その返事を聞いて彼女がすこし微妙そうな顔でこっちを見る。


「全部って…そういうこと言う人は信用できないんだよなー。」


「本気です。良いところしか無いので。」


即答した。


「………もう、何でも言えばいいと思ってるでしょ。」


そう言って、照れながら笑っている彼女は本当に可愛かった。

そんな姿を見たせいか、自分も少し恥ずかしくなってしまい

誤魔化すように茶化してみせた。


「いやーこれはもうどう考えても付き合っちゃうしかないんじゃないっすか?

 これで付き合わないって選択肢あります?逆に?」


そう言うと、彼女も変なトーンでおれを茶化す。


「ふっふっふ…まだまだ甘ーい!!

 高嶺の花の先輩を落とすのはそう簡単なものではないぞ!」


「マジかー」


わざとらしくおれは苦笑いして見せた。


「ま!とりあえず、今日のお詫びはしてもらわないとね!

 次は奢ってもらわないと!」


「え?それって…」


「ま、本格的なデートってとこっすかね?」


その瞬間、彼女はおれにグッと顔を近づけ、真剣な表情でまじまじと目つめる。

おれは思わずどぎまぎしてしまう。


「次はちゃんとわたしをリードできる?」


おれはたじろぎながらも、視線を外さず彼女の目を見て言う。


「ええ…できますとも!」


一瞬の静寂の後、


「末永くよろしくお願いします。」


と、彼女はほころんだ――――




次の日、朝起きるとLINEが来ていた。


「ねえ!今度ここ行かない?わたしが連れてってあげるから大丈夫!

 きっとめっちゃ楽しいよ!」


………やっぱ可愛いなーと思いつつ、


「いいっすね!行きましょう!」


と、昨日徹夜で考えたデートプランの紙をクシャクシャに丸め、

ニヤニヤしながらLINEを送った。




                おしまい。








最後まで読んで頂きありがとうございました!

次回は短編の異世界恋愛ものを投稿したいと思います。

できるだけ早く出しますので、今回の短編が良かったと思って頂けたら

また遊びにきてください!

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