周りから腫れ物扱いされている引きこもりお嬢様の面倒を見るだけのお仕事

夏乃実(旧)濃縮還元ぶどうちゃん

第1話 殺害予告

 見上げるほど立派な正門。膨大な敷地を囲む石壁と高い塀。

 綺麗に整備された石畳み。道に大きな噴水。多種多様の花を咲かせる園庭。

 他を圧するように構える煉瓦レンガ造りの豪邸。

 

 そんな屋敷の端にある書物だらけの一室で——。

「…………」

 窓からの見慣れた景色をまらなそうに見つめる一人の令嬢がいた。

 

 人形のように整った人を魅了する容姿。

 白銀色の髪。

 口角を上げれば見える尖った八重歯。

 切れ長の大きなルビー色の目。

 細い体に日焼けのない白の肌。

 

 民話や伝説と呼ばれる存在——吸血鬼ヴァンパイアに似た特徴をいくつも宿している彼女であり、

『人が吸血鬼に血を吸われれば、吸血鬼になってしまう』というのは誰しもが知る有名な話。


 民話というのは、この世界で良くも悪くも大きな影響を与えているのだ。


 根深く語り伝えられてきた説話のせいで、吸血鬼に似てしまった容姿のせいで、家族からも距離を置かれ、厄災やくさい扱いされている令嬢——クレアローナ・ヴィアテンスがいた。


『どこかで吸血鬼に血を吸われてしまった』

『血を吸われていないという嘘をついている』なんて固定観念を持った家族の中に彼女の味方はいない。


 不気味そうな目を……冷淡な目を、長年向けられ続けていた。


 その結果、食事はドアの前に台車で置かれ、湯浴みをする時間も決められ、誰かと顔を合わせることもなくなった。会話をすることもなくなった。


 御付きの者には『一緒に居たくはない』『血を吸われたくない』『襲われたくない』なんて理由で離れてしまった。


 伯爵の格を傷つけないために、他貴族との交流を減らさないために、不気味な存在のクレアローナを隔離して存在をできるだけ隠す方針まで取られてしまった。


 だが、それはこの世界で当たり前の方針なのだ。

『貴族の使命』とも言える嫁ぎも見つからない分、冷遇されるのは当たり前なのだ。

 殺されていないだけ温情を受けていると言える。


 だが、クレアローナにとっては温情と言えるようなものではなかった。


「…………」

 家族に迷惑をかけないために、毎日が退屈の繰り返し。毎日が苦痛の時間で、これがあと何十年も続く。


 それなら一層、楽にしてほしいと思えてしまうのだ。


「はあ……」

 もう数えきれないほどのため息である。

 カーテンを閉めて、趣味でもない読書に戻る。


 積もりに積もり上がった憂鬱な日々。

 皆と違って生きる希望もない日々。


 だが、そんな日々は突然と変わることになる。



 太陽が真上に上がった時間。 

 コンコンとノックをして、不用心に扉を開ける者がいた。


「——っ!」

「おおー。若干吸血鬼っぽい」

「あなたは誰……。噛みちぎりますよ」

 冗談では済まされないことを言われる17歳のクレアローナと、低賃金で雇われた新たな世話役。


 これが二人のファーストコンタクトだった。



 




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