第2話 楽園の入口
1週間後の金曜日、『EDEN』をプレイするための機器が届く日。私は高校から帰った後、玄関の前に置かれていた箱と共に自室にいた。
装着するのは……頭を覆う脳波センサー付きのヘッドギアに、手足に付けるリストバンド4つか。
「注意事項?」
プレイする時はベッドなどの身体に負担の少ない場所で……これは大丈夫。
服装は室温に注意しながら薄着で……今のTシャツとショートパンツでいいか。
次は、プレイ中に周囲の人から刺激を加えられないように周知する?
どういうことかと調べてみると、機器の原理が関係しているらしい。睡眠中に近い状態で脳波を感知するため、プレイ中に身体に接触されると、現実の身体への負担になったりゲーム内で痛みなどを受けたりするのだという。
「
あの人が家に居ない最中にしかプレイしておけば大事だろうし、このまま続けよう。
注意事項と説明に従い、一式を装着してヘッドギアのスイッチを入れる。すると段々と意識が薄れ、眠るようにゲームの世界へと入っていった。
◆ ◆ ◆
目を開くとそこは真っ白な空間だった。
「『EDEN』へようこそ。ユーザーIDとパスワードを入力してください」
女性のような機械音声で目の前のキーボードを使うように促される。
これらは先週アカウント登録をした際に設定していたので、その通りに入力する。
「『芹沢椿』様、プレイヤーネーム『メリア』。情報に間違いはありませんか?」
表示されていた「はい」のボタンをタップすると、目の前に半透明の緑の立方体が現れる。
「改めましてメリア様。以降はAIによる案内を行わせて頂きます」
どうやらこの立方体がAIらしい。とりあえず案内役が人間らしくないのは楽だ。
「アカウント設定の際にもご案内致しましたが、このゲームは現実での貴女様の顔と身体でプレイすることになります。本当によろしいですね?」
そこは問題ない。私はひとりで居たい訳だから他人とそう干渉する予定もない。頷くとAIは説明を続けた。
「このゲームは既存のゲームとは異なり、世界に存在する習得可能な技術――所謂『スキル』がAIによって増やされ続けます。また『スキル』の習得のためには、プレイヤー自身がゼロからその足がかりを見つける必要があります」
「つまり、今ステータスやスキルを選んだりはしないと?」
「はい、その認識で間違いありません。ですので、今こちらですることは1つの質問のみです。『貴女はここで何をしたいですか?』」
何をしたいかって、そんなの……
「ひとりでいられれば後はなんでも」
「かしこまりました。それではここですることは以上です。『EDEN』の世界へと行ってらっしゃいませ――」
案外すぐ終わった、助かる。
真っ白な視界が今度は真っ黒な闇に包まれる。
そのままぼうっと待っていると、視界が段々と広がっていき、鮮やかな景色へと変わっていった。
◇ ◇ ◇
東京都内の某所にあるビルで、男女がパソコンの前で話をしていた。
「『EDEN』の販売状況は順調かな?」
「はい。
「15万か、なら十分な人数だ」
「はい。明後日――10月24日午前4時にログアウト機能を消去、デスしたプレイヤーの脳波感知装置を利用し死亡させるようにプログラムも済んでいます」
「それなら後はAIに任せてしまっても大丈夫かな?」
「実行に関しては問題無いかと。ですが……」
女性社員は椅子を回転させて、男性の方に向き直る。
「本当に大丈夫なのですか?」
「多くの人が死ぬことがか?」
「いえ、それはどうでもいいのですが――」
男性の方が「それはそれでどうなんだ」と口を挟むが、それを意に介さないで続ける。
「私たちの方は……どうなりますかね」
「そのことか。明日のうちにここを離れれば問題ない。何せ優秀なAIがいるんだから、彼がどうにでもしてくれるさ」
「改めて思いますが不思議ですね、このAI」
「うちの社長のこともそうだけど、詳しいことは知らなくても良いんだよ。使えるなら有難く利用すればいい。あとは気にせず高みの見物といこうじゃないか」
「はい、部長。では、私は残りの作業を終わらせたら帰ります」
「そうか、じゃあ後は頼むよ。タイムカードは忘れず切るようにね、ちゃんと残業代出るんだから」
「こんな時でも出るんですか……」
「勿論。ホワイトだろう?」
「……そこだけは感謝しておきます」
女性社員は去っていく男性社員を背にそう呟いた。
◇◇◇◇◇
これより4/22(土)以降、毎日朝8時頃に更新致します(第1章の間は加えて12時にも更新します)。
「この先の展開が期待できる!」「主人公の今後の行動が楽しみ!」と思った方! 是非フォロー(ブックマーク)をして、次話以降もよろしくお願い致します。
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