楽園を求めて少女は殺す ~ゲーム内の死が現実の死になったらしいですが、ひとりになりたいので近付く人は全員殺します~

しあら

第1章 現実が終わる時

第1話 空虚な現実世界

この小説を選んで頂き、誠にありがとうございます。お読みの際は、以下の2点にご注意ください。

①残酷・暴力・グロなどの描写が含まれます。

②人が死亡する描写が多発します。(特に第2章以降)

構わないという方は是非このまま、苦手な方も注意の上、お読みいただけると嬉しいです。


◇◇◇◇◇


 ――私以外のゴミみたいな人間のいない世界に行きたい。


 常日頃からそんなことを思ってはいるけれど、身体があり命がある以上、現実からは逃れられない。


 そんな現実逃避から戻り、誰かが書いた落書き塗れの机を傍目に教室を立ち去る。貧相な語彙力から捻り出したと思しき罵詈雑言が書き殴られていた。


 ……確か、消すのを止めたらここには手を出されなくなったんだっけ。

 前は書かれる度には消してたけど、面倒になって放置したら書く場所が無いからか、これ以上汚されなくなった。むしろなんで毎回書くのやら。


 そんなことを考えながら階段を下っていると、誰かが上の柵から身体を乗り出しながら声をかけてくる。


「やっほー芹ちゃん。――ぷっ。これプレゼントー」


「ぺっ、あたしからもー。お、当たり〜」


 何、このベタついてるのは……ガム? 水をかけるだけじゃ飽き足らず、今度はこんなものものまで……。


「ぺっぺっ……。芹沢さーん、後は掃除しといてねー」


 上にいた2人は唾を吐いた後、見えない場所に去っていった。


「う……目に唾入った。というか、わざわざ私が掃除する訳ないでしょ……」


 バランス崩してあそこから落ちて死ねばよかったのに……。


 髪に付いたガムを引き剥がしながら、ロッカーまで歩く。唾はハンカチで拭けば取れるが、ガムは段々乾いてこびり付き始めたので今取るのは諦めた。


 私の名前である『芹沢せりざわ椿つばき』と書かれたロッカーの中からスニーカーを出す。

 縦に長いタイプだが、ここしばらく中に入れたのはスニーカーか上履きの2つだけだ。


「物があると無くなるしね。それに……」


 スニーカーの中には……ポケットティッシュの塊、か。この臭いからして、牛乳でも染み込ませて突っ込んでるのかな。


 靴を裏返すと、ティッシュの塊はベチャッと音を立てて床に落ちる。スニーカーの中敷きは牛乳が染み込んだのか湿っていた。


「はぁ……しょうもない」


 ロッカーは鍵を壊してでも開けてくるから、持ち物は全て手元に持っておくようになった。靴だけはかさばるから入れてるから、放課後にはこうなるけど。


 発想は幼稚なのに執着は過剰で、私にしつこ過ぎるくらいに絡んでくる。かといって、私に直接手は出してこない。


 ――それなら私には関わらないでひとりにしてくれないかなぁ。


 そんなことを思いながら、湿ったスニーカーを履いて帰路についた。


◆ ◆ ◆


 無駄に大きな家の扉を開き、耳を澄まして中の音を聞く。


「……出かけてるのかな」


 ここは私の父の弟――つまり叔父の家だ。

 2年前の中学2年生の頃、両親を亡くした私は叔父に引き取られた。それから私はこの広い家で叔父と2人で暮らしている。

 当時、私の引き取り手が中々見つからず、叔父も始めは断っていたらしい。だが、一度顔を合わせて以降「金はあるから」とか言って引き取る意志を見せるようになった。


「それにしても、あの時の態度の変わり様はあからさまだったなぁ……」


 靴下を脱ぎ、洗濯機の隣に置かれたカゴに入れながら呟く。

 実際私の受験代から高校の授業料、生活費まで出してもらっている。そこには感謝してる、そこにだけは。


「その分、私の身体を使とか、だとか言ってくるから、プラマイゼロどころかマイナスだけど」


 当時の私も叔父のあの目線からして、そうなる予感はしてた。しかも周りの大人たちもそれを分かっていた風だった。

 だから私は拒否したけど何故か聞き入れて貰えなかったんだよねぇ……多分面倒だったんだろうなぁ。


「あと暴力も」


 そのの最中、叔父は腹を殴ったり首を絞めたりしてくる。おかげで身体に痣が残るから色々困る。


 今はもう慣れちゃったけど。良くないんだろうけど現状を変える気も起きない。


「ふぅ……疲れた」


 自分の部屋に入り、制服のシャツとスカートを床に脱ぎ捨てた。

 そのまま大きなベッドに倒れ込むように横になって一息つく。


 さて、いつも通りスマホで現実逃避の時間潰しでもしてるかな。

 通知……あの人叔父からだ。「今日は金曜だから遅くなって帰りは19時になる。部屋でいつものように待っているように」か。


「あと2時間、ご飯はいいや……」


 動画サイトから一覧を開き、指を何度もスワイプさせる。

 インフルエンサーの商品レビュー動画や、ゲームの実況動画など、何の変哲もない動画が並んでいる。

 そんな中に、フルダイブのMMORPGを紹介する動画のサムネイルが目に入る。


「次世代の技術でもう1つの現実を……」


 動画をタップして視聴を始め、10秒スキップをしながら最後まで流し見る。どうやら数週間前に正式サービスを開始したゲームで、内容は世界観やゲームの仕様と特徴など、プロモーション動画らしい説明だった。

 だが気になったのはそこではなく、VR機器の方だった。


「現実と変わらない感覚でプレイできる……」


 高校以外で外出できず虚無のままスマホを見るよりは、仮想の現実で現実逃避するのもいい……かな? 1人でも居られそうだし。

 一応自由に使えるお金はあるし、それで買える値段ではあるみたいだ。


「ゲーム名は『Eternity永遠の Dream&Explorers探索者たちの Networkネットワーク』。略して『EDEN楽園』」


 評判は良さそうだし、注文してもいいかな。配達予定日がちょうど来週の金曜日になるみたいだし。

 後はアカウント登録だけして来週を待つとするかな。

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